Melted Kiss
Author: 鷹野サエさま




「まったく、危ないところだった」
 ハルディアは少しばかり苛立たしげにグラスの酒を煽った。

 もうとっくに夜だというのに、カラス・ガラゾンは淀んだ夏の熱気に包まれたままだ。
 空に昇っている月も、どろりと鈍い光を放っている。

「誤解だ、ハルディア。彼らとはただ話をしていただけだよ」

 どうしてそんなにむきになるのかさっぱり分からない、とレゴラスは反論した。
 珍しく感情を露にしたハルディアに、当惑した様子だ。

「部屋に誘われて、ついて行きかけていたでしょう?」
「珍しい弓を見せてくれるというから」
「そんなもの、あなたを誘い出す口実に決まっているでしょう」

 あからさますぎる常套句に乗せられてのこのことついていけば、それはもう承諾したものと捉えられて当然だ。
 ロリアンでは暗黙の了解となっている、こんなことすらわきまえていない純粋培養な恋人には、いつもはらはらさせられっぱなしだ。
 レゴラスとロリアンのエルフたちとの間にさりげなく割って入り、虎視眈々とレゴラスを狙う彼らを退けた回数は数知れず。
 
 もちろん、そんなところも新鮮で、ハルディアを堪らなく惹きつけるのだが。

「ハルディアはどうしていつも話を悪い方にとろうとする?」
 お気に入りのソファに沈み込んでいたレゴラスは、納得がいかない、と端整な顔を曇らせた。
 
 ハルディアは大袈裟にため息をついてみせた。
 今まで何度も何度も言い聞かせた。
 それでも麗しの王子殿下は、生に倦み刺激を求めるガラズリムたちにとって、自分がどれだけ魅力的に映るか、まださっぱり理解していないようだ。

「ここは闇の森ではないのですよ。もう少し自覚してください」
 ハルディアは少し不機嫌に言い放った。

 テーブル越しにちらりとレゴラスを見る。
 レゴラスはすっと目線を落とした。
「分かった、これからは気をつけよう」
 気位の高い恋人もようやく折れる気になったようだ。

「誠意が感じられませんね」
「ハルディア、いい加減機嫌を直してくれないか。何でもするから」

「ほぅ、何でも?」

 すかさずレゴラスの言葉尻を捉えて、ハルディアは片方の眉を持ち上げた。
 気分は口を開けて獲物が飛び込んでくるのを待っている狼だ。

「う…できる限りのことは」
 これまで何度も言質をとられて散々な目に合わされている恋人は、少しばかり及び腰になった。
「大丈夫、簡単なのにしましょうね」
 ハルディアはさっきまでの不機嫌が嘘のように、にこりと笑いかけた。
 その笑顔に、レゴラスはさらに脅えた様子でソファに座りなおし、酒で満たされたグラスをテーブルに置いた。
 グラスの中の氷が、からりと涼しい音を立てる。
「簡単な?」
 疑い深げな碧の瞳が、探るようにハルディアを見上げてきた。
「じゃあ、目隠しではどうでしょう?簡単でしょう?」
 ハルディアは盛られた果実の下に敷かれていた白い布を手に取り、テーブルを跨いでレゴラスの隣に腰掛けた。
 二人分の重みで、ソファが更に深くくぼむ。
 ハルディアはレゴラスが嫌がる隙を与えず、手早くレゴラスの後頭部で布を結んだ。
「ほら、もう出来た」 

「ハルディア」
 視界を遮られたレゴラスは、少し心許なさそうな口調でハルディアを呼んだ。
「いつまでこうしていたらいい?」
「もちろん、私が満足するまで、ですよ。私の王子」
「何も見えない」
「欲しい物があれば、私が取って差し上げますよ」
 ハルディアはテーブルの上に盛られていた果物の一片をレゴラスの口元に運んだ。
「ほら、どうぞ。これはなんでしょう?」
 恐る恐るそれを口に含んだレゴラスは、ゆっくりと味わってから口を開いた。
「分かった、無花果だ」

「当たり。では、これは?」
 ハルディアは別の果物を手にとった。
 今度はレゴラスも躊躇わずにくわえとる。
 まるで雛のように、与えられたものを素直に口に入れる恋人の様子がかわいくて仕方ない。
「ん、葡萄」
「ああ、零してしまって。ほら、これは何でしょうね?」
 飲み込み損ねて唇を汚した果汁を、ハルディアはぺろりと舐め取った。
「あ…ハルディアの、舌」
 レゴラスの声が、少し甘い響きを帯び始めた。
「じゃあ、これは?」
 ハルディアはさっきまで飲んでいた酒のせいか、ほのかに上気した白い首筋に指を滑らせた。
 くすぐったそうに首を縮め、レゴラスはくすくすと笑った。
「…っ、指。ハルディア、次は?」
 最初は嫌がっていたレゴラスも、ようやくこの、半ばゲームのようなじゃれあいを楽しむ余裕が出てきたらしい。

 ハルディアは果実酒を口含み、レゴラスに口づけた。
 酒を流し込むようにすると、レゴラスはこくりと喉を鳴らして飲み込んだ。
 口の中の酒がすべてなくなってもハルディアは唇を離さず、レゴラスの舌を絡めとり、更に深く唇を合わせてゆく。
「ん…」
 口付けたまま、服の紐を取り去って肌に手を滑らせると、レゴラスは喉の奥で小さく声を漏らした。
 しっとりと汗ばんだ体は、ハルディアの掌に吸い付くように馴染む。

 手早く服をはだけさせ、ハルディアはレゴラスをソファに押し倒した。
 色づいた胸の突起を舌と指とで転がし、その感触を楽しむ。
「ん…ハルディア」
 真上に伸ばされた手が、ハルディアを求めて宙をかいた。
 その仕種にハルディアは思わず口元を綻ばせた。
「ほら、ここですよ」
 レゴラスの手をとって握り返し、同時に胸の突起を甘く噛んで刺激すると、甘やかな曲線を描く唇から吐息が漏れた。
 その反応に満足したハルディアは、舌をさらに下へと滑らせていった。
「っ、あ…ふ…っ」
 レゴラスは掠めるように触れただけでも、敏感に反応してしなやかな体をたわませた。
 どうやら視覚が奪われているせいで、いつもよりも感覚が鋭くなっているようだ。

「あ…ハルディア、この布、もう取っては駄目?」
「そんな可愛い声でおねだりしても、まだ駄目ですよ」
 せっかくの機会なのだから、もっと楽しまなければ。
 ふと、テーブルの上のグラスが目に留まった。
 長い間放って置かれたグラスは、すっかり冷えて汗をかいている。

 氷、か。

 急に愛撫の手を止めたハルディアに、不穏な気配を感じたらしいレゴラスは身を起こした。
「何、ハルディア?」
 ハルディアはグラスを傾け、氷を一片、手に取った。そしてそれを、レゴラスの腰骨のあたりにそっと押し当てた。
「さぁて、これは何でしょう?」
「ぁぅ…っ!冷たい…っ!」
 レゴラスはびくりと大きく身を震わせた。
「ん…っ、氷?」
「その通り」
 ハルディアは氷をレゴラスのなめらかな肌の上に滑らせた。
 氷は油断するとすぐにハルディアの手を離れて、あらぬ方へと滑ってゆく。
 それが思わぬ刺激となるらしく、レゴラスは何度も小さく声を上げて身を捩った。そんな仕種はハルディアの嗜虐心を否応なしに煽り立てた。
「や…ぁ」
 火照ったレゴラスの体のぬくもりで氷はすぐに溶けてゆく。
 氷が通った部分だけが濡れている。その部分は蝋燭の光に照らされて、何故か淫靡な光景に映った。
「ぁ…ハルディア、それ、いやだ」
「でも、ここは悦んでいるようですが?」
 ハルディアはくすりと笑うと、中途半端に絡まっていたレゴラスの服をすべて剥ぎ取り、あらわになった中心に軽く口づけた。
 そこはすでに立ち上がって透明な蜜を零し始めている。
「っや…っ」

「ああ、溶けてしまった」
 ハルディアはもう一度テーブルに手を伸ばし、ひんやりと冷たいグラスを傾けた。
 今度は大きめの氷を選ぶ。
「さあ、もっと足を開いて」
 右足だけを背もたれの上に乗せさせる。
 自然と足が大きく開かれる格好になり、レゴラスは羞恥に身を捩った。ハルディアはそれを阻んで素早く足の間に入り込み、氷をレゴラスの先端に触れさせた。
「っい…ぁ…っ」
 レゴラスの背がびくんと弓なりにしなった。
 ハルディアは内腿のきわどい辺りで氷を転がしながら、少し冷たくなった昂ぶりを口に含んだ。
「少し、酒の味もする」
 わざと敏感な部分を外すようにして愛撫を続けると、レゴラスは焦れたように小さく腰を揺らした。
「ハルディアっ…!」
「どうしました?」
「この布、もう外したい。でないとおかしくなってしまう」
 いつもよりも鋭い快感に、レゴラスはとうとう降参の声を上げた。
「いいでしょう」
 ハルディアは微笑してレゴラスの目を隠す布を取り去った。
 快楽の涙をうっすらと溜めた碧の瞳は、すっかり情欲にけぶっている。

 ハルディアは溶けていい具合に丸みを帯びた氷を、もう一度酒に浸して入り口を探った。
 そこはすでに熱く蕩けて息づいている。
「ひゃ…ぁっ」
「ここだと、溶けるのが早い」
「いやっ、そんなの入れないで」
「ここは悦んでのみこんでいきますけれどね?」
「ん…ぅ」
 形の良い眉を寄せて刺激に耐える端整なエルフの表情は、何度見てもたまらなく扇情的で嗜虐心をそそる。
 ハルディアはゆっくりと氷を押し込んでいった。
「ほら、全部入った。どうですか?」
「冷たい…や、ぁ…っ、早くとって」
「もう?仕方ないですね」
 ハルディアはゆっくりと指をいれて中を探った。時々わざとレゴラスの弱い部分を掠めるように擦る。
 レゴラスの体はその度に正直に反応した。
「は…ん…っ」
 声を出すまいと堪える様子すら、愛しく思えてならない。
「ああ、溶けてなくなってしまった」
 ハルディアはくすくすと笑って奥までいれた指を蠢かせた。
「でも、まだまだ足りないようですね?ほら、ひくついている。分かりますか?」
 レゴラスの足を大きく開かせたまま、ハルディアはわざと羞恥を煽るような台詞を吐く。
 かっと頬を染めたレゴラスは、濡れた瞳でハルディアをにらみつけた。
「ハルディアはどうしてそんなに意地が悪い」
「楽しいからですよ、決まっているでしょう」

 貴方がこんなに可愛いからいけない。

 ハルディアは人の悪い笑みを浮かべて、レゴラスの薄く染まった目許に口づけた。
 そうして散々弄って綻んだ入り口に楔を押し当てる。
「ほら、欲しいですか?」
「……っ、」
 レゴラスが物言いたげな目線を投げかけてくる。
「口で言わなければ分からないといつも言っているでしょう?」
「……ハルディアが、欲しい」
「よろしい」
 満足げに口元を綻ばせて、ハルディアはゆっくりと身を進めた。
 焦らされ続けた肉襞はねっとりと絡みつき、脊髄を突き抜けていくような快感をもたらしてくる。ハルディアは思わず声を漏らした。
「ぁ、…っあ……っ」
 何度も抜き差しを繰り返すと、レゴラスは一層甘く濡れた声を上げてハルディアの背中に縋りついてきた。
 抱き合う二人の間に挟まれたレゴラスの昂ぶりは、とめどなく蜜を零してすっかり濡れそぼっている。
「ああ…っ、も、ハルディア…っ」
 とろりと蕩けた瞳が、ハルディアを見上げた。
 無意識の、媚態。それは堪らなくハルディアを魅了する。
「かまいませんよ、達っても」
 ハルディアはレゴラスの襞に潜む、快楽の源を強く突いた。
「っ―――!」
 レゴラスは声もなく仰け反り、蜜を爆ぜた。
 それに連動するように、内側もきつくハルディアを締め付ける。
 ハルディアは息を詰めてその快感をやり過ごし、脱力したレゴラスの体を抱えなおすと、再びレゴラスの体を貪り始めた。





 二人で横になるには狭すぎるソファから降りると、ハルディアはすっかり氷が溶けて薄くなってしまった酒を、水代わりに少し口に含んだ。
 夏の生ぬるい風が部屋の中に吹き込んでくる。
 そんな夜風すらも今は心地よい。
 目を閉じて、快感の余韻に浸る。
「ハルディア」
 ソファにくたりともたれ掛かったままだったレゴラスが、ハルディアを呼んだ。
 ハルディアはレゴラスの隣に座り、汗で張り付いた白金の髪を優しくかきあげてやった。
 心地よさげに目を細める様子は、まるで猫のように優美だ。
「どうされました?」
 ハルディアはあやすように声をかけた。
 普段のハルディアを知るエルフたちが聞いたら目を丸くするような、甘く優しげな声色だ。
「歩けない。寝室まで連れて行って」
「仰せのままに」
 こめかみに小さく口づけて、ハルディアは恋人を抱き上げた。
 最近、この王子もようやく素顔を見せ、甘えるようになってくれた。
 それが嬉しくて堪らない。
 小さな幸せをかみ締めながら、ハルディアは無意識のうちに頬を摺り寄せてくるレゴラスの額に一つ口づけた。




*〜 THE END 〜*



んん〜〜〜、す・て・き。大好きなサイト様のハルレゴSSです。 リンクでも紹介させて頂いてますが、 鷹野さまの素敵サイト、 MALIBU では今回のフリーSSのほかにも、ハルレゴ、アラレゴ、双子レゴ、エオレゴなど、 管理人のツボにジャストフィットなSSがありまくりです。まだ行ったことがない、という貴方、 ぜひ行ってごらんになることをおススメいたします。






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