第 4 章  未明の光


「さあ、もうそのグラスは空けてしまうといい」

レゴラスが甘い香りの酒を飲み干すと、エルラダンはレゴラスから空になった杯を受け取って、ことりと卓に置きました。

寝台の上、レゴラスの背後にエルロヒアがぴたりと身を寄せました。 エルロヒアは優しい手つきでレゴラスの髪をまとめ、幾度か束に捩ってから胸へと肩越しに降ろします。 双子の弟は手を出して兄の垂らすオイルを手のひらに受けると、 ゆっくりとレゴラスの両の腕、肩、背中を揉みはじめました。 エルロヒアの手の感触に、レゴラスは体を預けて小さく呻き声を上げました。

エルラダンも手にオイルを取りました。レゴラスの前、膝立ちの姿勢となります。 今度は剣で鍛えた双子の兄の手が、王子の顎から耳朶、それから首、鎖骨を伝って胸板に滑り降り、 やがて腰骨のところから背骨に向かって回ってゆきました。 エルラダンの手が触れるそばから皮膚がじんわりと熱を孕んで、温かい感触が広がっていきました。

「今度のこれは …… エチュイリン・トゥールが効いてるの? それとも君の手の力?」  レゴラスが眠そうにたずねます。

「うーん、両方、だね」 エルラダンが答えます。 「どんな感じ?」

「すごくいいよ」 レゴラスの表情に笑みが広がりました。

「おい兄弟。いまの聞いた?」 エルラダンが声をかけました。 「この子はすごく、いいんだってよ」

「知ってるよ」  エルロヒアが答えて背後から王子の首筋に優しく歯を立てました。  「僕はもう、さっき味見済」

「僕もそろそろ味見したいところだね」  エルラダンが言いました。  「でも、その前に。まず、この子の魂を手当してあげないと」

レゴラスの顎を引き寄せてエルラダンは軽く口づけました。 探るようなエネルギーがエルラダンから自分に向かって伸びてきます。 レゴラスが口を開くと、エルラダンはその息をすぅと吸い込みました。 そうしておいて、今度はレゴラスの肺に大きく息を吹き込みます。

「呼気は生命であり、精神でもある」  双子の兄が王子の耳元で囁きます。  「そして、この呼気を利用することで行なえる癒しの技がある。では、傷を探すよ」  エルラダンが指先でレゴラスの胸元に触れながら唇を合わせます。 エルラダンは差し込んだ舌を伝令に使いレゴラスを探りました。 エルラダンの口づけは、エルロヒアと違い、やや強引で荒っぽくさえありました。 アラゴルンの口づけがいかにこの2人とかけ離れたものだったか、ふと、レゴラスは思い浮かべました。 アラゴルンの口づけはいつだって力強く、そして恐ろしい程の渇望を以って自分の唇を求めてくるのが常でした。 あのなにかに飢えたような渇望、その存在こそがレゴラスを惹きつけてやまない最大の理由でもありました。 胸にまたあの痛みが訪れて、レゴラスは大きなため息をつきました。

胸の奥深いところでなにかが自分を探っています。 幻のように浮かぶエルラダンの姿がぱっくりと開いた傷穴を閉じていました。 やがて双子の兄の指の下、残るはもう、白く細長い傷跡だけとなりました。 ペレジルの指がもうひとつの古い傷跡を掠めました。

「レゴラス、ここにもなにか、不思議な傷がある」 エルラダンが呟きました。  「これは?」

「…… 竜が」 レゴラスが呟きました。 「エルウィンへの、僕の愛を切り取っていった」

「その話は初耳だな」 エルラダンが言いました。  「いつかそのうち、話しておくれ」  エルラダンがその箇所を丁寧にさすっていると、傷跡はやがてほとんど見えなくなりました。  「失くした愛の記憶が、君を破滅に向かわせるのではなく、君を強くするものであるように」  エルラダンが力の言葉を唱えます。

あの強い哀しみは、エコーのようにまだ胸に残っています。 でもレゴラスは、この地の美しさ、そしてそれを愛そうと思える気持ちがまた、 自分に戻ってきたことに気がつきました。 下半身が熱くなり、頭に鼓動が鳴り響きます。 下半身に沁みこむ燃えるような熱情を感じて、レゴラスは現実へと引き戻されました。

エルラダンの顔は触れ合わんばかりの場所で耳元に囁きかけました。  「いまのでわかっただろう?  美しい君。僕がどれだけ君を欲しているか。 僕のこの願いを君は叶えてくれるかな?」

あの灰色の狼の瞳に露わな欲情の影が浮かんでいるのを見て、 レゴラスは自分も同じくこの欲情に応えたい、 この圧倒的な存在に支配されてしまいたい、と強く願わずにはいられませんでした。 レゴラスはふぅと息をついてエルラダンに答えました。  「きみは魔術師、僕なんかが抵抗しようったってどうせ無駄なんだ。そうなんでしょ?」

「わかっただろ、レゴラス? どうして僕がこのエルフに篭絡されてしまったか」  後ろからエルロヒアの声が響きます。  「オークを狩って束の間の休息を得る寒くて長い夜、僕を暖めてくれるのはこのエルフの愛だけだった。 彼なくしては、僕はとうに魂を失くし幽鬼へとこの身を落としていたに違いない。 なにしろあの頃の僕らの怒りときたら、 自分らの追っているあの忌まわしき闇の存在と自分との区別さえつかないくらいだったから。 どうにもしがたいんだ。 彼は僕を得ずにはいられないし、僕は彼を受け入れずにはいられない。 このエルフと闘うなんて、僕はもうずいぶん昔に諦めたんだ」

エルラダンがレゴラスの肩越しにそっとエルロヒアの頬に触れました。  「闘い? そんなものが僕らの間にあっただろうか?」  優しい声でエルラダンが言いました。  「きみは自らの意思で僕のもとへとやってきた。 そして今日、これからも。 我らが闇の森の美しい従弟殿を通じて、あの罪の意識なしに、僕のもとにおいで」

振り返ったエルラダンは優しくレゴラスに口づけてこう言いました。  「僕とつながって、美しの君。僕たち2人できみを共有できるように」

あの命令の言葉がエルラダンから響くのが聞こえ、 レゴラスは双子の研ぎ澄まされた意識と昂ぶりが中に流れ込んでくるのを感じました。

「この融合はどれくらい続くの?」  レゴラスが聞きました。

「しばらくすれば消える。あらためてつなげたり、消したりしない限りはね」  エルラダンが言いました。 「おいで、愛しい君」

レゴラスは眼を閉じて、覆いかぶさってくるエルラダンに身を任せました。 双子の兄の口づけは痺れるようでした。 エルラダンは寝台の上にレゴラスを押し倒し、片足を開くとぴったりと下半身を押し付けました。 ゆっくり腰を動かして互いに中心をこすり合わせていると、昂ぶりは次第に堅さを増していきました。

エルロヒアは背後に横たわってレゴラスの首筋そして背骨、腰へと舌を滑らせています。 双子の弟の手はレゴラスの股に入り込み、足を少し開かせてから軽く袋をもみしだきました。 やがてレゴラスは、入り口にエルロヒアの舌先が触れるのを感じました。

エルラダンはレゴラスの胸の突起を舌で転がしながら、 堅く勃ち上がった王子の棹を手に握りました。 エルラダンはやや乱暴に手を上下させながら、 先端の溝に滲む真珠色の液体を指で広げるようにこねくりまわしました。

同時に2人が攻撃してきて、レゴラスははっと声を上げて身を捩じらせました。 ゆっくりと焦らすように、エルラダンの唇がレゴラスの棹を包みます。 それと同時に後ろの窪みに一本の指が侵入してくるのを感じて、レゴラスはさらに大きな声をあげました。 ゆっくりと内奥を探るエルラダンの指はふいに中で曲げられて、 求めていたあの一点から快感が走り抜けました。 体中を駆け抜ける刺激にレゴラスが呻き声を上げます。 こんなに感じやすく敏感になっているなんて、これまで覚えがないくらいでした。 エチュイリン・トゥールが感覚を高めています。 エルラダンの指のまわりをエルロヒアの舌が、湿った音を立てながら、離れずに舐め続けていました。

容赦なく追い上げるエルラダンの口淫でレゴラスはもう、瞼の裏に光の粒が見えるようでした。

「っああ! もう ------ いく!」  絶頂を間際に感じたレゴラスが呟くと、エルラダンの唇と指は唐突にレゴラスから離れてゆきました。 エルラダンはレゴラスの棹の根元をぐっと強く握りこみ、自身も小さく呻き声を上げました。

「ああ、ありえない。エルラダン! ひどいよ!」  レゴラスが叫びました。  「本当に、こんなことするなんてもう、殺されたいとしか思えない。 それもゆっくりと、むごい死が望みなんだ、そうだろう?」

レゴラスの背後、エルロヒアもやり場のない苦痛にのたうちながら言いました。  「賛成、僕もレゴラスに加勢する!」

エルラダンがくつくつと笑いました。  「僕を殺しちゃいけないよ。これはこの後にくるものの前奏でしかない。 いまここで辛抱しておけばもっと大きな歓びが味わえる。すぐにね」

「もう無理、我慢できない」  そう言うとレゴラスは仰向けになってやるせない昂ぶりから自身を解放しようと手でしごきはじめました。 すぐにエルラダンが飛びかかり、馬乗りになって王子の両腕を頭上に押さえつけました。 レゴラスは息を乱してもがきました。

「きみの残酷さときたらほんとに、オーク並だよ!」  目の前がちかちかするのがやっと収まって、少し落ち着いたレゴラスが言いました。

「今夜は泣くまで感じさせてあげる、そう言っただろ?」  エルラダンはそう言ってにやりと笑いました。  「まだ足りない。でもこれからだ。見てて」

「なんであそこでやめられるんだろう? きみだって感じてたはずなのに、どうして?」  レゴラスが重ねて問いかけます。

「自制だよ、自制。愛しい君」  エルラダンが答えます。

レゴラスはハ!と笑いました。

「ああ神よ、レゴラス、このエルフのはかりしれない自制心ときたら、きみはその半分すらもわかっちゃいないって」  エルロヒアが身を起こしながら言いました。

「僕だって感じてなかった訳じゃない。ほら、これがその証拠」  寝台の上、エルラダンも上体を起こすと座った姿勢のままレゴラスの手を取って、 岩のように硬い自らの屹立を触らせました。

「ふーん、なるほどね …… 魅力的だ」  レゴラスはそう言うとエルラダンを押し倒してかぷりとその屹立を咥えてしまいました。 先端に舌を這わせながら唇をすぼめ吸い上げると双子の兄がうめきます。

「僕の治療者どのにもちょっとした薬を進呈するよ」  そう言うと再びレゴラスはエルラダンを咥えて追い立てはじめます。 やがて寝台のキルトの上、ペレジルが声を抑えながらも身をよじり始めると、 レゴラスは先ほどのエルラダンと同じように唐突に唇を離し、にんまりと笑いました。

「どう? お返しだよ」  ペレジルの下半身から小さな若木もかくやと突き出たそれを尻目に、 レゴラスは荒く息をつくエルラダンを見やりました。

「今度は一本とられたな」  エルラダンが笑いました。

エルロヒアが身を乗り出し、果物籠へと手を伸ばしています。 エルラダンは両肘をついて起き上がると、熟した桃を手にするエルロヒアの露わな尻を見てにやりと笑いました。

「レゴラス、僕の美味なる兄弟にぜひ、試してみたいことがあるんだけどな」

レゴラスとエルロヒアが振り返ったと同時に、 エルロヒアの尻たぶを伝って垂れ落ちる桃の汁のイメージが2人の意識に閃きました。 エルロヒアが笑みを浮かべ、柔らかい果実に大きく齧り付きました。 エルラダンとレゴラスの舌の上に甘い味が広がります。

双子の兄が桃をエルロヒアの手から取り上げました。  「では兄弟、今夜の君の侮辱をそろそろ清算することとしようか」

「おっと、復讐だね」 エルロヒアが笑います。

エルラダンが弟を寝台に引き倒し、膝頭で首の下を押さえます。  「レゴラス、もう彼は君のものだ」

されるがまま、従順にうつぶせるエルロヒア、その腿のところにレゴラスは跨りました。 エルラダンから受け取った桃に齧りつき、 欠片を一片手に落とします。 ぎゅっと果汁を絞ると滑らかな尻たぶに滴り落ちる果実の汁に、エルロヒアの体がぶるりと震えました。 レゴラスは身を屈め、窪みを垂れ落ちるその甘い液体を、舌に舐めとっていきました。

「ああ従弟殿、いまのは悪くない」  エルロヒアが甘えた声で言いました。

エルラダンも眼を閉じて唇に舌を這わせました。  「んんっ、こっちでも味わってるよ。エルロヒア、君のお尻はいい味だ」  エルラダンが言いました。 「レゴラス、彼として。そうしてそれを、僕に見せて」

「喜んで」  レゴラスが答えました。 卓からオイルを取り、瓶を傾けてエルロヒアの双丘に垂らします。 レゴラスは自身の男根を窪みに沿って押し付けるように滑らせました。

エルロヒアがうめきました。  「ああ、兄弟、どいて。きみたち両方とも僕の上にいたら重いだろ」

エルラダンが脇にどきました。

「エルロヒア、腰をあげて、ちょっとだけ」  双子の弟が言われたとおりの姿勢をとると、 レゴラスは身を起こして指を一本、ゆっくりと差し入れました。 そして二本目。異物感にエルロヒアが小さく声を上げて体を動かします。 その異物感はエルラダンとレゴラスにも伝わりました。 エルラダンがさらにオイルを垂らし、 手で双丘を広げるように、 王子の指を飲み込む桃色の穴のまわりにオイルを塗り込めます。 指はもう三本目が入り、中で蠢く王子の指先がエルロヒアの敏感な場所を掠めました。

「ああそれ、いい」  熱い矢に射られたような刺激が内奥を走りぬけ、 エルロヒアがか細く声を上げました。 レゴラスとエルラダンも同じ感覚で小さく呻きます。

「レゴラス、僕の弟は魅惑的、そう思わない?」  エルロヒアの尻を撫でながらエルラダンが囁きました。  「入れて。もう出来るだけ荒っぽくしてあげて。そういうのが好きなんだ」

「兄弟、君ってほんと、ひどいやつだな」  エルロヒアが言いました。  「レゴラス、最初はお手柔らかに頼むよ」

「だめだめ、我が王子、なるべく手荒に、ね」 エルラダンが笑います。

レゴラスは膝立ちになって、自身をエルロヒアの入り口に押し付けました。 ペレジルの腰を手で押さえるようにして、ゆっくりと体重をかけ、侵入していきます。 内奥の敏感な場所を掠めると、エルロヒアがまた喘ぎました。

目のくらむような快感でした。 根元をエルロヒアの内壁に熱くきつく締められると、 鏡のように写り込む2重の快感が襲ってきます。 エルラダンは瞼を閉じて自分のものをしごきながら、 陶然とした表情でもう片方の手で下から弟をしごいています。

感覚は3人分になりました。怒涛のような快感の渦に流されないよう、 王子は腰の動きを強めながら意識をひとりずつ、順に集中させていきました。 まずエルロヒア、それからエルラダン、そうしてまた自分の意識。 根元まで埋まった自分自身に蠢くエルロヒアの内壁を感じると、 次に限界まで広げられたエルロヒアの体内の燃えるようなひりつきがやってきます。 力をこめて突き上げると閃光のように快感が閃きました。 次にエルラダン、堅く張った肉棒を両の手に握り、自分と弟を一度にしごきあげています。

「どう、いいかい? 兄弟」 エルラダンが問いました。 「君の中に彼を入れてるのはいいかい?」

「彼がいいのは、君にだってわかってる」  エルロヒアが荒く息をつきながら言いました。 「同じように感じてるんだ」

「確かに」  エルラダンはほほ笑んで瞼を閉じました。そしてレゴラスにこう告げました。  「レゴラス、動きを止めて」

「ああ、今度は何事? 司令官殿」 レゴラスは動きを止めると諦めたように呟きました。

「ああ神よ! 兄弟!」  エルロヒアが叫びました。  「こんなの拷問だ!」

「そうじゃない、もっとよくするんだ」  エルラダンはくすくす笑うと寝台の後方、レゴラスの背後に移動しました。 オイルを塗りつける濡れた水音がしたかと思うとレゴラスは背を押され、 上半身を前へと押し倒されました。 次の瞬間、エルラダンの大きな男根にレゴラスは深々と貫かれていました。

「あああっ!」  内側が炎に貫かれたようになって、レゴラスは大きな声をあげました。  彼の下ではエルロヒアがやはり声を上げながら右へ左へと身を捩じらせています。

しばし強く激しく突き上げてから、エルラダンの動きが止みました。  「レゴラス、君が動くんだ」  エルラダンが指示します。

レゴラスは四つんばいになったエルロヒアを腰のところで掴みました。 3人全部の意識が感じられます。 自分に突き入れているエルラダン、エルロヒアに包まれている自分自身。 レゴラスのもので一杯にされているエルロヒアの感覚。 そして弟を一杯にする王子と感覚を共有するエルラダン、それに反応するエルロヒア。 極まった快感の感覚は痛いほどでした。

王子に合わせるようにエルラダンの動きがゆっくりと強まっていきました。 その律動は破城槌のようなリズムでレゴラスを穿ちました。 レゴラスもやがて2人の間で呼応するリズムを見つけ、 動きをあわせていきました。

レゴラスは眼を閉じて、蜜のような快感と痛みの激流にさらわれていきました。 過去に愛した者たちの姿が浮かびます。 エルウィン、そしてアラゴルンが瞼の裏を流れていきました。 手を伸ばす彼らを掴もうとしても、彼らの手はレゴラスをすりぬけ、 流れに乗って消えていきました。 レゴラスの息がとまりました。 波に呑まれ、レゴラスは溺れていました。 そのとき、レゴラスは力強く暖かい双子たちの存在を感じました。 2人の肌、そして柔かな愛情と口付けが自分を健康へと引き戻すのを、レゴラスは感じました。

王子の体の中を暖かいものが駆け巡りました。 レゴラスに双子たちの情熱が感じられました。 痛切なほど互いを求める2人の愛情、2人が融合するときの光と恍惚、そしてその裏に流れる暗黒と贖罪の痛み。

エルラダンの艶やかな声がレゴラスの頭に響きました。 エルロヒア、わが誘惑の君、僕を感じるかい?  いまレゴラスを通じて君を抱いてる。彼を通じて僕を感じて。いま君を完全にしてる、君の中に僕がいる。

エルロヒアが応えます。美しい従弟殿を通じて君を感じるよ。 ああ、もう僕を解放して! 魂が妬け付きそうだ!

言うんだ、エルロヒア! 聞かせて! エルラダンが指示します。

君は僕の罪、僕の欲望、僕の呼吸する空気。エルロヒアが呻きました。

そして君なしでは僕は不完全、孤独だ。エルラダンが思考を飛ばします。 きみは僕の心、羽ばたく翼、わが魂のすべてにおいてわが半身。

レゴラス、感じられる? 僕たちの愛を、君も感じる?

うん感じる。レゴラスが思考を飛ばします。圧倒的な感覚でした。 感じてるよ。レゴラスの瞳に涙が浮かびました。 下半身の熱は昂ぶるばかりでした。レゴラスの楔はエルロヒアのなかで弾け飛びそうでした。 体がばらばらになりそうでした。手のひらの下、エルロヒアの腰が汗濡れて滑ります。 顔を伝う汗の筋が胸に滴っていきます。 エルラダンの大きな楔もレゴラスの敏感な場所を何度も突き上げ、おかしくなりそうなほどの愉悦が襲いました。

「エルラダン!」レゴラスが声を上げます。  「この、魔狼(ワーグ) の申し子! もう耐えられない、いかせて!」

エルラダンが柔らかく笑いました。  「その鍵になるのは君だ。やってごらん、美しい君」

快感の鏡像が幾重にも重なって目の前に閃きました。 エルロヒアの肌に指を食い込ませてさらに奥深く打ち込むと、 熱に浮かされたように自分を求めるレゴラスにエルロヒアが声を上げて喘ぎます。 レゴラスは深呼吸すると、山の頂上に上り詰めるのを感じ、それから突然足元が崩れ落ちたように感じました。 目の前を閃光が散り、あまりに強烈な快感の洪水に、エルロヒアのなかに埒を空けながらレゴラスは吼えました。

耳と意識で残りの2人も同時に達したのがわかりました。 痛みにも近いような感覚が3人のなかをうねりながら駆け抜けてゆくと、 愛と同じくらい原始的な咆哮が胸の奥深くからこみ上げてきます。 熱い液体に満たされたと同時に、エルロヒアから白濁が飛び散りました。 快感が脈打つ男根から最後の一滴まで搾り出すように動き続けていると袋に痛みが走ります。 背後のエルラダンがきつくレゴラスを掴んだままやるせない声をあげました。

3人は荒く息をついて身を震わせながら、 ゆっくりと地に舞い落ちる秋の葉の様に身を離し、寝台へと倒れこんでいきました。

ずいぶんと長い間、誰も一言も口をききませんでした。 3人の体はまだ、陶然と蕩けるような快感に支配されています。 レゴラスは心が砂と化してしまったかのようでした。 体中の筋肉が痛みます。レゴラスはしばし、天井を見るともなく見つめました。

「ああヴァラよ! 僕はもう、終わってる」  レゴラスが低い声で呟きました。

エルロヒアがレゴラスの胸に腕を投げかけ、鼻先で耳を弄びました。  「僕たちは賭けに勝てたかな?」エルロヒアが言いました。

「ああ10倍はね」  快感の余波に時おりぶるりと震えながらレゴラスが答えました。  「教えてくれないか、この、特別な才能を使って、君たちはこれまで何人のエルフを拷問してきたんだい?」

「ここ数百年ではまあ幾人かいたよ。どうやって僕たちがこの能力に気づいたと思うんだい?」  反対側からレゴラスに温かい体を密着させながらエルラダンがにっと笑顔になりました。

「かわいそうに、その不運なエルフたちは2度と同じではいられなかったろうね。 君たち2人って、ほんとに脅威だよ」 レゴラスが言いました。

それを聞いて双子たちは両方とも笑いだしました。

「本当に」 レゴラスが言います。  「君たちみたいなのは、父さんの地下牢に閉じ込めちゃわないと」

「うーん、僕たち2人は同じ牢にしといてね」  エルロヒアがレゴラスの向こう、エルラダンの手を取って指を絡ませました。

「それで時々、お楽しみのための可愛いエルフをよこすのも忘れないで」  エルラダンが付け足します。

「そうだ、オーク狩りから足を洗うんだものね。これからは君たち、エルフ遊びに本腰を入れるんだ」  レゴラスが言いました。

「滅茶苦茶にしてあげたいと思うのは君ぐらいだよ、我が王子」  レゴラスの髪から三つ編みの束を手に取って、鼻先に毛先を滑らせながらエルラダンが答えました。  「気分はどう? よくなった?」

「うん」 レゴラスがほほ笑みました。  「君たちの癒しの技って、ほんとにすごいんだね。 もしこのことが広まったら、君たちの館は癒しの技を求める者たちで溢れ返るだろうな」

エルラダンがくすくすと笑います。  「まあそれは、多分ないと思うけどね。 この技を僕らが使うのはごく特別な状況のときに限られるんだ。 たとえば、僕らのお気に入り、闇の森の王子を元気づけるため、とかね」

レゴラスはうーんと伸びをして寝台の上に座ると、窓の外を見上げました。 外はまだ暗闇に包まれています。 「いま何時だろう」

エルロヒアが片肘をついて身を起こしました。 「もう相当遅い。朝も近いだろうね」

「ちょっと外の空気を吸ってくる」  レゴラスはそう言うと、身をかがめエルロヒアに口づけてから弟の体を乗り越えて寝台を降りました。

客間のほうへと歩いてゆくと、レゴラスは開け放たれた扉の前で立ち止まり、薄墨色へと明けていく空を見渡しました。 外の空気は肌に冷たく、 その静けさはまるで、新しい一日が自ら開けてゆくのを息を詰め、待ち構えているようでした。 快感から来た体の奥の痺れ、そして高められた意識がこの地の精気へと伸びていくのを レゴラスは落ち着いた心持ちで感じていました。

アラゴルンはどうしているだろうか、ふとレゴラスは考えました。 今宵、彼はアルウェンと愛を交わしただろうか? レゴラスに触れたときと同じように、かの女の美しい肌に触れて喜びに震えただろうか? 抱くときは優しくしたのだろうか? 終わったあとには王はかの女を腕に抱いて、王子が彼を抱きしめていたあの頃のことを思っただろうか? 夜も更けて、そんなことをまだ考えずにいられない自分に気が立って、 起きて部屋の中を歩き回り、 彼のエルフ王子のところへと行くべきかどうか散々迷ったあげく、 やはり観念して暗い諦めの中、また寝台に横になったりしただろうか?

この疑問すべての答えがイエスであることを、レゴラスは承知していました。

レゴラスはため息をつくと胸に手をあてました。 あの恐ろしいほどの痛みはもう、触れば心地よく響く傷跡のように、軽い鈍痛へと薄らいでいます。 双子たちの治療は優れたものでしたが、胸に残ったこの痛みから完全に解放されることは、 今後これからも、きっと永遠にないのだろう、とレゴラスは思いました。

建物の外壁のどこかから、問うように (さえず) る一羽の鳥に静寂が破られました。 つられるように他の鳥たちからも甘い囀りが聞こえます。 王子がこうして目にする間にも、地平線の際の一条の薄明りがゆっくりと広がり、 薄紫から薔薇と桃の色へと変わっていきました。 まどろみから覚めるアノールが欠伸して、伸びをしながら少しずつ、 探るように、その燃える指先を世界の際へと伸ばしていくにつれ、夜は逃げていきました。

この光景に王子は喜びに震えました。朝一番の光はなんと美しいのでしょうか。

レゴラスは背後に双子たちがやってきた気配を感じました 。エルラダンが肩に手を回し、エルロヒアが腰に手を巻きつけます。 太陽が昇るのを眺めながら、 3人はしばし心地よい沈黙に身を任せ佇みました。

「この美しい光景に、僕は生きる限り飽きることはないと思えるよ」  レゴラスがほうと息をつきました。

「そう、考えてもごらん、美しい君」  エルラダンが優しく言いました。  「もし夕べ君がやろうとしていたことをほんとに実行していたとすれば、 この壮麗な朝を眼にすることももうできなかったんだ」

「約束しておくれ、レゴラス。痛みから逃れるためとはいえ、 二度ともう、あんなことはしないって」 エルロヒアが言いました。

「うん、約束するよ」  王子がため息をつきました。  「あの時は頭から道理が抜け落ちてたんだ。 もうよくなったよ、君たちのおかげでね。 でもね。彼を恋しいと思う気持ちはまだ消えないんだ。 いまだに彼のことを想わずにいられない。 どうしてるだろうか、夜は思った通りに進んだろうか? 今でもまだ、僕のことを想ってくれてるんだろうか? ってね」

「わかるよ、それが愛の定めだ。 きっとこれからも、その想いは多少は君のなかに残っていくんだろうね」  エルロヒアが言いました。  「いつか、違う気持ちでいられるようになれたらいいね。 これから君は、どうするつもり?」

レゴラスはため息をついて、薔薇色に染められた家々の屋根からその向こう、 はるか彼方に暗く静かに横たわるペレンノール平原を見晴らしました。  「ギムリに約束したんだ、ヘルム砦のそばの洞窟に、一緒に行ってあげるって。 かわりにギムリは僕とファンゴルンに行く。その後のことは …… まだわからない。 …… でも、ミナス・ティリスにはもう少し緑があってもいいよね。 数年経ったらまたここに戻って、少し木を植えてみようかな。 そしたら時々、僕はここに来て …… 植えた木の育つ様子を見に来よう」

双子たちがうなずきました。

「彼を置いては行けない、そうでしょ?」 エルロヒアが言いました。  「しばらくは船には乗らない?」

「そうだね」  レゴラスが言いました。  「エステルが中つ国を去るまでは、僕も此処に留まるよ」

「なら、僕らも似たような選択をしようかな」  エルラダンが言いました。  「エルロヒア、我らが妹の去る、その時が来るまで、僕らも此の地に留まることとしよう。 最終的に僕らがどうするかは、その時になってから決めるのでも遅くはない」

「そうだね、そうすることとしようか」  エルロヒアが言いました。

レゴラスは2人の声に深い哀しみと諦観を感じました。 エルロヒアがエルラダンのところに行って優しく口づけます。 互いの手が背を撫ぜるとしなやかな2人の体が溶け合うようにひとつになりました。 心の中で、レゴラスは2つのすずやかな声が (いにしえ) のエルフの嘆きの唱を歌っているのが聞こえました。 王子はほほ笑みました。2人のこの深い愛情を経験したレゴラスはそれを美しいものだと思っていたのです。

「まあ、その哀しみの時が来るのはまだ先のことだね」  レゴラスが言いました。 「僕たちの前に広がる、この新しくて美しい一日はどう使おうか?」

双子たちが互いを見合わせにっと笑います。

「そうだな、とりあえず、きみへのあの約束を守ることとしようか?」  エルラダンがきらりと眼を輝かせ、言いました。

「約束って? なんだっけ?」  レゴラスがたずねました。

「思いつく限り、すべてのやり方で君を抱いてあげるって、そう言っただろ」  エルラダンが言いました。 「あらゆる可能性を試してみないとね」  レゴラスの太腿をゆっくりとなで上げます。

「あらゆる可能性を試してみる、この新しい一日にふさわしい目的だ」  エルロヒアがにかっと笑いました。  「美しの君、きみもそう思わない?」

空一面、翼を開くように夜明けが広がるなか、レゴラスの顔にも大きな笑みが広がりました。









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