第 3 章  歓びの共有


ハーロンドの船着場を発つ時のレゴラスの気分は、ここに着いた時と比べて格段に良くなっていました。 レゴラスはリラックスした姿勢でアロドの背に跨りました。 両脇の下から回されたエルロヒアの両腕の、その感触が心地よく感じられます。 馬は灯火の照らす街道を駆け出しました。 背後には密着し揺れる体。腰のところに感覚が集中して、 レゴラスの下半身は期待で痺れるようでした。

エルラダンは遅くも早くもなく馬を駆けさせながら、時おり横目に2人を見やります。

「さっきのあれは、どうやら気に入ってもらえたみたいだね、従弟殿」 エルロヒアが耳元で囁きました。

「ああ、あれを気に入らないエルフなんていやしないさ」 レゴラスが答えます。

「あれよりももっと …… 欲しい?」 エルロヒアが問いました。 両手がチュニックの下に入り込み、肌に直接触れてきます。

「欲しいさ、わかるだろ」 レゴラスが応えます。 レゴラスの首筋から髪を除けてそこにエルロヒアが吸いつくと、レゴラスがはっと声を上げました。

「で、どうしたい?」 エルロヒアがたずねます。  「上? それとも、下で受ける側?」  エルロヒアの手がレギンスの中に入り込み、勃ち上がりかけたレゴラスの昂ぶりを握ります。

「どちらでも。両方」 レゴラスがうめきます。 「僕が上でもいい?」

「悪くないね」 エルロヒアが言いました。  「ところで、ずっと気になってたんだけど、エステルときみとは …… どうだったの?」

レゴラスは思わず笑みを浮かべました。  「大切な義理の弟の、そんなプライベートなことを僕に聞くのかい?  …… ま、いいけどね。どっちもありだった、でもどちらかというと、僕が上のほうが多かった、かな」

エルロヒアが笑いました。  「いまや王としてゴンドール全土を掌握するあの弟が、か。 人々を指揮するあの姿からはとても想像つかないな」

「きっと、ほんの少しの間でも」 レゴラスが言いました。  「誰かに全部託してしまえる、自分は肩の荷を降ろすことができる、そんな気がしたんだろうね」  レゴラスは王との短くも情熱的な交歓を思い出し、また押し黙ってしまいました。

また悶々とし始めたレゴラスの様子を察して、 エルロヒアはレゴラスを握る手を強め、着実に追い上げ始めました。

「兄弟、ほどほどにしとかないと果てちゃうだろ」 エルラダンが声をかけました。

「そうしたら回復するまで待たなくちゃいけないね」  エルロヒアがにやにやしながら言いました。

「早く戻ろう」 レゴラスが言いました。

「やっとその気にさせたんだ。兄弟、もう一刻も無駄にしてられないよ」 エルロヒアが叫びます。

エルロヒアがアロドを駆ってスピードを上げさせると、 3人はペレンノール野を偉容あふれる都に向かって飛ぶように駆けていきました。


. . .. .. . . . . . . . . .. .. . .



都の大門に着いたのはとうに真夜中を過ぎ、月が天中高く昇った頃でした。 3人は門兵に会釈しながら門をくぐりました。 エルロヒアはもう手は膝の上にひっこめて、馬上に行儀良く座っています。 馬の歩むに任せて、曲がりくねった道を王室専用の厩舎目指し昇って行くと、 馬の息が落ち着く頃に目的の場所に到着しました。

馬番の少年は落ち着かなげに厩舎のまわりを行ったり来たりしていました。 闇の中、少年のそばかすだらけの顔と肩まで届く砂色の髪が戸口を洩れる明りに照り映えています。 3人の近づく音を聞きつけて、少年はくるっと振り返りました。

「ああ、よかった!」 少年が声を上げました。  「無事お戻りで。ずいぶん長くお帰りにならなかったから心配してたんです。 エレッサール王からの伝令がレゴラス王子を探しにきたんですよ」

レゴラスは探るように若者を見ました。  「王がぼくを、呼んでた?」 レゴラスは問いました。

「いえ旦那、ただレゴラスさまがどちらにいるか、とだけ。 馬に乗って街の外に向かいましたって言ったら衛兵はシタデルに帰りました」

今日というこの夜に限って、アラゴルンが自分を呼ぶなどあり得ない、 そのことは充分承知しているにもかかわらず、レゴラスはまた胸がずっしりと重くなるのを感じました。 エルロヒアがそっと、押さえるようにレゴラスの肩に手を置きます。

「僕が頼んだ事はどうなったかな?」  エルラダンが問いました。 同時にエルラダンがティヌの背の後ろを軽く叩くと馬は素直に仕切りの中へ戻っていきました。

「はい、あの」 少年はくちごもりました。  「なんとか仰られた通り、薬草を揃えられました。 療病院にしかない種類のものだったんです。 院長は最初、僕なんかにその薬草を出してくれるつもりがないみたいで、 でもエルロンドの息子殿が治療のために必要としてるって言ったらもらうことができました」

「ここにいるレゴラス王子は戦時に傷を負って、今もまだ完全には癒えてない」  エルラダンが言いました。 「彼を治すのに必要な薬草なんだ」

エルロヒアがレゴラスをつつきました。 「そうだろ、王子?」

「あ、ああ、そうなんだ」  レゴラスはアロドから滑り降りると肩をさすりました。  「まだちょっと痛むんだ。 もしこの薬草が効いてくれたら、僕はこれから先ずっと、きみに感謝しなくちゃならないね」  そう言ってレゴラスがにっこり笑顔をきらめかすと若者は真っ赤に顔を染めました。

「ああレゴラス様、あの戦いで傷を負われたんですね。先の大戦で活躍なさった話はいっぱい聞いてます。 エルロンドのご子息の武勇ももちろんです。 おれ、エルフの話だったらなんでも大好きなんです!」  少年は目を輝かして言いました。

「人の話をなんでも全部、鵜呑みにするのはよくないよ」  そう言うとエルラダンは一歩、若者に近づきました。  「僕らの果たした役割など小さなものだ。君の名は?」

「バラヒアといいます」  若者は驚嘆の色も露わに背の高いペレジルを見上げました。 気圧されたように一歩後ろに下がります。

エルラダンが少年の肩に手を置きました。  「誇りある名だ」 エルラダンが言いました。  「僕たちの先祖にもその名を持つ者がいた」

「そうなんです、知ってます、旦那様」

「では、バラヒア、これはきみの手間に対する私からの感謝の印だ」  エルラダンはベルトに付けた小さな物入れから一枚の硬貨を取り出して、 若者の手に握らせました。 それからエルラダンは若者に顔を近づけて、優しく髪をかき上げてやりながら少年の頬にそっと手を置きました。  「常識的に考えて、君はこのことを誰にも口外しちゃいけない、ってことはわかるだろうね。 この傷の存在が知れることに、王子はひどく神経質になってるんだ」

またもやバラヒアは可愛らしく頬を染めました。  「はい …… あ、も …… もちろんです」 少年はつぶやきました。

エルラダンはうなずくとすっと背筋を伸ばしました。  「では僕たちは行くこととしよう。馬の面倒をよろしく頼むよ」

3人は道を下っていきました。 レゴラスが振り返ってみると、バラヒアは硬貨を握る手を胸元でぎゅっと押さえ、 もう一方の手で頬をさすりながらじっとこちらを見つめています。

声の届かない距離まで離れてからレゴラスは言いました。  「エルラダン、分かってるとは思うけど、あんな風に人間と戯れるのはよくないよ。 君はずいぶんあの子の血を騒がせたんじゃないかな?」

「なにも傷つけたわけじゃないさ」  エルラダンが答えます。それから彼はレゴラスに顔を寄せるとこう言いました。  「君のほうは僕たちとの戯れに、それほど異存はないみたいだけど?」  エルラダンの指がレゴラスの耳先をつぅとなぞると、 触れられた場所がちりりと熱を持ち、その感覚はそこからじわりと広がります。

レゴラスは笑顔を浮かべてエルラダンの手を押さえました。  「強気だね。でも僕がもう戯れはごめんだ、って言ったらどうするの?」

「そうしたら君の負け」 エルラダンが笑います。

「挑戦を受けたら?」

「そしたら僕たちみんなの勝ち」 エルロヒアがレゴラスの腰に腕を回しながら言いました。

「これから何処に行くの?」  自室への曲がり角を通り過ぎたのに気づいてレゴラスが尋ねます。

「僕たちの部屋」 エルラダンが答えます。  「そのほうがいいだろ? あそこなら誰にも邪魔されない。 君を探す者がいたってあそこなら大丈夫」  エルラダンはほほ笑んで唇に舌を這わせました。振り返りざまに瞳がきらりと輝きます。

双子の兄の、闇に照らされた横顔と編み込みの入った長い黒髪を、レゴラスは魅入られたように見つめました。

高い建物が連なる薄暗い道を歩いていくと空気に花火の名残、硫黄の香りがうっすらと漂います。 時おりすれ違う人々は笑い、語り合いながら3人の脇を通り過ぎていきました。

3人はやがて、王の居城であるシタデルの北、来賓用の館に辿り着きました。 アーチ状の門を入って広い廊下を抜け、石造りの階段を昇ってゆくと小さな踊り場につき当たります。 3人はそこで立ち止まり、エルロヒアが扉を開けました。 部屋に入るとそこは客間で、暖炉と卓、そして4脚の椅子が置いてあります。 エルロヒアは部屋を歩いていくとテラスの扉を大きく開け放ちました。 高い位置に聳えるシタデルの城壁のその向こう、北東には黒々と広がるペレンノール野が見えました。 部屋にはもうひとつ別の部屋へと続く間口があり、その奥が寝室になっているのだろう、とレゴラスは思いました。

卓子のうえには壜が一本と食事の入った籠、3つのグラス、 そして丁寧に布でくるんだ包みが数個、置かれています。 エルラダンは卓のほうへ歩いて行くと、包みをひとつ広げました。 中から出てきたのは茎の長い乾いた薬草です。 端のところをすこし折り取って鼻へとかざしながら、 エルラダンは他の包みも開いて形状の異なる薬草を何種類か、卓に並べました。 エルラダンが笑みを浮かべます。

「エルロヒア、明日もう一度あの厩舎の少年のところに行って、ちゃんと礼をしてこよう。 これこそ僕たちの求めてた品だ」

「君たちがどうやって、あの子にその感謝の気持ちを表すつもりかは、聞かない方が賢明だろうね」  レゴラスが言いました。レゴラスは椅子を引いて腰掛けると、壜をとりあげ、栓を抜いてグラスに注ぎます。

「あんまりそこでなごむんじゃないよ。隣の部屋に、君のために準備したものがあるんだ」  エルラダンが言いました。向こうの部屋へと消え、しばし後にまた姿を表しました。  「湯を用意してある。これ以上冷める前に、浸かっておいで」

レゴラスはグラスを口に運ぶとその飲み物を舌の上で転がしました。 最初、無味かと思えたその味は、やがて蜂蜜とアーモンドの味わいに変わって口の中を広がりました。  「ペイショグリ だ、珍しい。この地方で入手するのは難しいと思ってた」

「きみがこれを好きなのは知ってたからね。王の厨房から失敬してきたんだ」  エルロヒアが言いました。

「今夜は僕のためにずいぶん色々用意してくれてたんだね。感謝するよ」  レゴラスはほうとため息をつきました。

レゴラスの頬にエルロヒアが軽く口づけます。  「いいんだよ。今日のこれは君の為にと考えたことではあるけれど、 そんな感謝してもらうほどのことでもないんだ。 さあ行っておいで」  エルロヒアは王子の上着の紐を緩めました。 「湯の中だ。気分が良くなる」

レゴラスはグラスを置くと立ち上がり、寝室に入りました。 そこは天井の高い、ゆったりとした広めの部屋でした。 奥にある重厚な木製の寝台は鳥と獣の不思議な文様が掘り込まれ、 上掛けのキルトと同じ赤い色の布が天蓋から垂れています。 床には灰色の敷石が敷き詰められ、背の高い大窓から入る微風で薄手のカーテンが揺れています。 天井から吊るされる幾つものオイルランプは部屋全体に芳醇なイエローの輝きを放っていました。 レゴラスは奥にもうひとつ間口があるのを目に留めました。

アーチ状の間口を抜けて小さな続き部屋に来ると、そこにはうっすらと湯気の立ち昇る、陶製の大きな浴槽がありました。 すぐ横の椅子の上には畳んだタオルが重ねてあります。心誘う光景でした。 上衣を脱いでから、張り付く馬の毛に強張るレギンスを足から引き抜くと、 レゴラスはちゃぷんと湯のなかに入りました。 はあとため息をつき、レゴラスは浴槽の端に頭を乗せました。 瞼を閉じたレゴラスに、いま一度、馬上で感じたアロドの体の躍動と、 背に密着するエルロヒアのどこか安らぐようなあの感触が蘇ってきました。

扉を開く音が聞こえ、エルラダンが小部屋に入ってきました。 湯桶の横にしゃがみこむと、レゴラスの体を賞賛するような視線で眺めます。

「気分はどう?」 エルラダンがたずねます。

「悪くない」 レゴラスが答えました。 「数時間前と比べたら相当に改善されたね」

「よろしい」 エルラダンが言いました。  「君の症状はこれでもっと改善できる」  エルラダンは手の中で乾いた薬草をかりかりと砕いて湯船のなかに落としました。 雪の冠を頂く山の風のように爽やかな香りと、そこにローズ、サンダルウッド、セージを足したような、 清浄なのに官能的で豊潤な香気が部屋を満たしました。

レゴラスは自分でも気づかないうちに大きく深呼吸していました。 そうして深い呼吸を続けていると、いつしか心が軽くなり、嬉しくなるような感覚がレゴラスを包みました。 皮膚のうえをちりちりとする感触が走り、次第に感覚が鋭敏になってきます。 エルラダンの吐息、そして心音までもが聞こえるようでした。

「ああエルラダン、これは何ていう種類の薬草?」 レゴラスがたずねました。

エルラダンは笑って湯のうえに身を屈めると大きく息を吸いました。  「いいだろ? これ。これはアセラス、エステルの好んで使う癒しの薬草と、 もうひとつ、昔父に教わった薬草とを組み合わせたものなんだ。 エチュイリン・トゥール (目覚めの息)って言ってね、感覚を醒めさせ増幅する。 この2つを合わせるととてもよく効くんだ。 しばらくそのまま、そうしているといい。痛みなんか何処かに行ってしまうから」

「おや、その点については君たち自身が面倒をみてくれるんじゃなかったっけ?」  レゴラスは湯船の中からエルラダンに笑いかけました。 体の緊張がもうすっかり解れたのがわかります。

ペレジルが艶めいた笑みを返しました。  「美しい君、もう我慢できなくなったのかい?  こういうことをきちんと進めるにはちゃんと時間をかけなきゃだめなんだよ。 僕たちには今宵という時間があるんだから」  エルラダンの手がレゴラスの鎖骨に伸びて、指先でゆっくりと円を描きながら胸元におりていきました。

王子は瞼を閉じました。レゴラスが今いるのはさんさんと陽が輝く草むらでした。 胸まで届く花ざかりの野草をかきわけ進んでいくと、立ち上る香気に鼻を打たれます。 太陽から細く伸びた一条の光線が、レゴラスの頬と唇をくすぐりました。

レゴラスは瞼を開きました。 目の前にはいつのまにかエルロヒアがいて、 唇で優しく、丹念に、顔中に口づけを落としていました。 浴槽の脇から屈みこんだ双子の弟はもうなんにも身につけていませんでした。 エルロヒアはふっとほほ笑んで瞼を閉じると、薬効のある湯気を自分も深く吸い込みます。

エルラダンは反対側に小さな腰掛けを引いて座り、じっと2人の様子を見ています。

レゴラスは濡れた手でエルロヒアの頭の後ろをぐいと引き寄せると、もう一度その唇を味わいました。

エルロヒアが小さくため息をついて囁きました。  「僕は押しの強いエルフが好きなんだ。僕の唇を、きみのものにして」

豊かに艶めくその唇に、闇の森の王子はもう一度唇を合わせました。 レゴラスの唇のその動きにエルロヒアも官能的に応えます。 舌を差し込んで温かい咥内を味わっているとエルロヒアの舌もそこに絡みついてきます。 2人はやがて息を切らして顔を離しました。

エルロヒアが立ち上がって猫のように背伸びをしました。 体中の筋肉が盛上がり波打ちます。 それからエルロヒアはしなやかに身を躍らせて、湯の中のレゴラスの上にざぶんと落ちてきました。 水しぶきが飛び散ります。 驚きの声を上げるレゴラスにエルロヒアは笑って湯船のなかで体を起こしました。

「ああヴァラよ!  僕の大切な場所の上に落ちてくるんなら先にそう言ってくれてもいいだろう?」  レゴラスが文句を言いました。

「戦士の行動っていうのは予測不可能なものなのさ」  答えるエルロヒアは眼が笑っています。 すりつけるように腰を揺らめかすと、2人のものは少しずつ勃ち上がりはじめました。

「戦士の生き様からはもう足を洗うんじゃなかったっけ?」  レゴラスが笑みを浮かべました。

「長年の習慣はそう簡単には抜けないよ」  エルロヒアは笑いながら答えました。  「エルラダン、ぼんやり見てないで石鹸を取ってくれないかな? ちょっとは役に立とうよ」

「僕が役に立たないって?」  エルラダンが答えました。  「そんなこと言って、弟よ、その一言を君は後悔するよ」  エルラダンは黄色い石鹸を手に取ると、もう片方の手で弟の髪を掴み、手荒に引き寄せてエルロヒアに口づけました。 エルラダンの乱暴な接吻にエルロヒアがじたばたしていると、下にいるレゴラスが呻き声を上げました。

「ほらみろ、我らが大切な闇の森の友人が、可哀相じゃないか」  エルロヒアが息を切らせました。  「遊んでないでそれを渡して」  エルロヒアは兄から石鹸を取り上げると手のひらで泡をこさえました。 それから背筋を伸ばすと兄を見つめます。 「ラダン、服を着ていないほうが君はずっと素敵だよ」

エルラダンは立ち上がり、ゆっくりとチュニックを頭から引き抜きました。 それから椅子に腰かけて、ブーツとレギンスを脱ぎ捨てます。 すらりと伸びた太腿の滑らかな乳白色の肌が露わになりました。 とうもろこしのひげ根のような黒い茂みが半勃ちの楔のまわりを囲んでいます。 双子の兄のその裸身を眼にしたレゴラスはため息をつき、 それから自分の膝の上に座って手を泡立てている、鏡像のように美しい弟を見やりました。 エルロヒアの顔には悪戯っ子のようなほほ笑みが浮かんでいます。

「今夜、君たちは2人して僕を殺そうと企んでるんだろ」  レゴラスは嘆息するように言いました。  「そうだ。僕を惨めな状態から解放してくれるっていうのはきっと、それが本当の狙い」

「おや、ばれちゃったよ、兄弟」  レゴラスの胸に泡を広げながら歌うようにエルロヒアが言いました。 乳首のあたりでいったん動きを止め、それから肋骨、筋肉の波打つ腹部へと手を滑らせます。 エルロヒアの手が湯船にちゃぽんと沈むと、水の中で王子自身をゆっくりとしごきだしました。 熱い刺激が男根の上下に駆け巡り、腰の奥に力が漲ってくるのがわかります。 甘く清々しい薬草の香りは圧倒的でした。

「このエルフはなかなか手強いぞ、殺すには2人してかからないと厳しいな」  エルラダンが言いました。

エルラダンも手を伸ばし、弟の手に自らの手を重ねて一緒にレゴラスを追い上げ始めます。 しばらくするとエルラダンのその手はレゴラスを離れ、エルロヒアのものの上へと移りました。 2人の手が湯の中で動くたびにぴちゃぴちゃと水音が立ちました。 エルフも半エルフも揺れる水に合わせて身を震わせます。 レゴラスが腰を動かし始めると、双子たちはおもむろに動きを止めました。

エルロヒアは自分とレゴラスをすすいで、エルフ王子の腰に手を乗せました。  「おいで、もう出よう」エルロヒアが言いました。  「僕の臭い兄弟にも身体を洗ってもらう時間をあげないと」

「エルロ、きみが僕に言った失礼な言葉はぜんぶしっかり覚えておくよ。 それで君は後々自分の言ったことを後悔する羽目になるんだからな」  エルラダンは滑らかな調子でそう言いました。 2人が浴槽から出ると今度はエルラダンが湯に入ります。

「君のお仕置きを楽しみに待ってるよ、兄弟。とりあえず急いでね。 僕がこのエルフを慰めるのを手伝って」  エルロヒアはそういいながら手にしたタオルでレゴラスの身体を拭き始めました。  「こんな綺麗なエルフ、独り占めしたら勿体無い」  エルロヒアが顔を近づけて、王子の首筋から滴り落ちる雫を舐めとりました。

レゴラスはエルロヒアの腕をつかみました。 抗おうともしない双子の弟を寝室へと連れて行くと、寝台の上に濡れた体のまま投げ倒します。

「僕の味見はもう充分しただろ?」  レゴラスが言いました。 「今度は僕の番」

エルロヒアがほほ笑みました。片肘をついて、誘うように横たわります。  「で? 君はどうしたい? レゴラス」

問いかけられたレゴラスは寝台に上がって、エルロヒアの体をずいと引き寄せ滑らかな尻たぶを手でさすりました。  「君が欲しいんだ、従弟殿。もうやめてって君が泣き叫ぶくらいに」

エルロヒアが笑いました。  「それ、いいね。でもレゴラス、まず、こういうのはどうかな?」  エルロヒアが自分の棹を握って見せました。 「まず唇で、これを感じてみたいとは思わない?」

レゴラスの顔にゆっくりと笑みが広がりました。 顔を近づけて美しいこの双子の弟に口づけると、奥まで何度も舌を出し入れします。 次第にエルロヒアの息が上がり、レゴラスの唇は燃えるように熱くなりました。 それからレゴラスの唇はペレジルの白く滑らかな喉元を滑り降り、 噛んだりキスしたりしながら胸元のところに落ちると、薔薇色の乳首を強く吸い上げました。 それからもう片方の乳首。エルロヒアが胸を上下させています。

舌に感じる小さな胸の突起、その甘い肌、堅く引き締まった腕や胸の筋肉を覆う柔らかい肉。 レゴラスは火がついたようにこれらすべての、エルロヒアの感触を味わいました。 エルロヒアの上半身から腰骨、そしてその向こうの魅力的な尻のふくらみに至るまで、掌でその曲線を確かめます。 太腿に押し付けられたエルロヒアの昂ぶりが、その存在を声高に主張するようでした。

エルフはエルロヒアの胸から下へと唇を落とし、吸い上げていきました。 視界に入るなだらかな筋肉の隆起がさらに渇望を煽ります。 やわい内腿を大きく一度舌でなぞるとペレジルが悶え喘ぎ、 その姿を見るとレゴラスは満足気に喉を鳴らしました。

「ああレゴラス、口でして! 今すぐに!」  エルロヒアが叫びました。  「来て、僕の意識を君も感じて」  エルロヒアの両手がレゴラスの顔を挟み込むと、レゴラスの頭にもう一度、あの命令の言葉が響きました。 エルロヒアに引き寄せられてレゴラスが棹にかぶりつくと、エルロヒアは大きくああっと声をあげました。

舌に脈打つ口の中の堅い肉棒の感触に、レゴラスはぞくりとせずにはいられませんでした。 自身の肉棒にも濡れた舌と唇を同時に感じて、レゴラスはもう自分がエルロヒアの感覚を共有しているのがわかりました。 今まで感じたことのないようなこの新しい感覚に、 レゴラスは自然と口の動きを、自分がされたいと思うような動きへと変えていきました。 軽く歯を立てて焦らすように口を前後させてから、全体を一気に咥えて絞るように吸い上げます。 体の下の漆黒の髪のエルフが洩らす抑えがたい歓喜の声を聞きながら、 レゴラス自身もいつしかさらりとした寝具の覆いに股間をすりつけていました。

絶頂はもう、すぐ目の前に迫ってきていました。 エルロヒアが突然、レゴラスの髪を掴んで股間に頭を引き寄せます。 ペレジルは風に煽られた若木のように身をしならせると、深い呻き声を上げ、達しました。

レゴラスの咥内に勢いよく甘い液体が迸りました。 王子は唇を離し、最後の迸りをてのひらで受けました。 レゴラス自身、寝台の覆いに腰を擦り付けながら同時に絶頂を迎えていました。 さざ波のようにやってくる快感の余波で全身を震わせながら、レゴラスは寝台の上、あおむけに横たわりました。 手を伸ばしエルロヒアの柔らかくなった棹を濡れた指でやさしくさすります。

「これで船でしてくれたときのお返しになったかな?」  レゴラスは片肘をついて身を起こしました。エルロヒアの汗濡れた顔から乱れ髪を払いのけます。

「ああ親愛なる我が闇の森の従弟殿」  エルロヒアがまだ荒い息で答えます。  「今度は僕が君に借りができた」

「そんなこと言ったらこれはもう、いつまでたっても終わらないよ、 片方がお返しをするたびにもう片方がまた新しく借りを作るんだから」  レゴラスが笑いました。

「まったくだよ」 浴室の間口から音楽のような声が響きます。  「そんな風に2人でやってるところをずっとここで見せつけられた僕としても、 ひとつ貸しを作ったぞ、って言いたいところなんだけどね」

レゴラスとエルロヒアが見上げると、 エルラダンが一糸まとわぬ姿で戸のところによりかかって立っているのが見えました。 濡れた髪が胸元にまとわりつき、水滴に肌が輝いています。 そう言うとエルラダンは客間へと姿を消し、エルロヒアはレゴラスをみてにっこりと笑いました。 エルラダンはペイショグリの入った水差し、グラス、果物を盛った籠、 そして黄色い香油の入った壜を腕に抱えて戻ってくると、 寝台脇の卓子にそれらの品を並べました。

「きみたち2人を見てるのはなんとも刺激的だね」  そういいながらエルラダンが軽やかに寝台に上がります。 エルロヒアが身を起こし、膝を抱えて座りました。エルラダンが弟の肩に腕を回します。  「わが誘惑の君、君がいくところを見るのはいいね。 特にそれが別の誰かとだと。この歓びには、あの罪の意識も介入しない」

「罪の意識?」 レゴラスがたずねます。

エルロヒアは横目でちらりとエルラダンの表情を伺いました。  「僕たちの愛が禁じられたものだってことはレゴラス、君も分かるよね。 これを貫くには、いつも、代償が付きまとうんだ。 これまではこのことをずっと秘密にしてきた。 今、きみにこの秘密を明かすのは、僕らが君のことを全面的に信頼してるという証。 他の誰もこのことは知らないし、知ってはならない」

エルラダンが頷きました。  「でもある日、わかったんだ。あの才能を使えば、僕らは第三者を通じて感覚を共有できる。 僕は弟に触れることなしに彼を愛することができる。あの罪の意識からは逃れられるんだ」

「でもどうだろう。それって、ヴァラの目から見たら余り変わりはないんじゃない?」  エルラダンの腿を指でなぞりながらレゴラスが言いました。

「それは考えたよ」 エルラダンが答えます。  「でもどちらにしろ僕たちはもう、数え切れない程この罪を犯してしまった。 もしいつか、ヴァラの前で裁きを受ける日が来るにしても、もう諦めるよりほかないだろう」  エルラダンがため息をつきました。  「僕たちが海を渡るかどうかの選択も、このことがあるからこそ余計に悩ましいんだ」

レゴラスがこくりと頷きました。

エルラダンが腕を伸ばして水差しを取ると、明りに掲げて中身を揺らしました。  「さっきのエチュイリン・トゥールをこれに調合してある。 わずかな時の間だけでも、僕たち3人の魂を安らげるのに役立ってくれるだろう」

エルラダンは中身を注いでグラスを2人に渡しました。 蜜色の液体にさきほどは見なかった茶色の薬粉が浮かんでいます。 レゴラスはグラスを揺らし、胸いっぱいにその香りをすぅと吸い込みました。 湯を使ったときと同じ、あの香りが、蜜と桂皮の柔らかい芳香に混じって立ち上ります。 あの胸の痛みがいまは消えさり、心は軽く、笑い出したいような気さえしています。

レゴラスはグラスを掲げて2人にこう言いました。  「友よ、今宵、君たちは僕を奈落の底から引き戻してくれた。 君たちが僕のためにわざわざその労を取ってくれたことが今の僕にはわかるし、 そのことに僕は本当に感謝してる。改めて乾杯しよう。エルラダン、チュイル (生命に)!」

「チュイル!」 双子たちも声を揃えて言いました。3人はグラスを鳴らして杯を傾けました。

「僕たちがこうしたのは君と、そして弟のことを愛しているから。 もし君にもしものことがあったら、彼は本当に打ちひしがれてしまうだろうからね」 エルロヒアが言いました。

「どうしてそうとわかるのさ?」  レゴラスは苦々しげに言いました。  「彼からしてみたら、ひょっとして僕が消えてしまったほうが都合がいいかもしれない」

「僕らにはわかるんだ。なぜって」  エルラダンがレゴラスの顎を手で引き寄せて言いました。  「それは彼自身の言ったことだから。 誰が本当はきみの部屋に僕らをよこしたと思った? といっても」  ペレジルが悪戯っぽく笑みました。  「僕たちがこんな治療法を君に施すつもりだったとは、彼は思ってもみなかっただろうけどね。 この部分は僕たち自身で考えたものだから」

エルラダンはグラスの残りを飲み干すと、手にオイルの壜を取ってエルロヒアに言いました。  「さあ、第3戦の始まりだ」

2人は振り返ってレゴラスに光る目を向けました。



原注
  * 『ペイショグリ』(paichogli):エルフ語の造語、paich - 果汁, gli - 蜂蜜
  * 『エチュイリン・トゥール』(echuilin thul):エルフ語の造語、echui - 目覚め, thul - 息
  * 『チュイル』(Chuil): 英語ではTo life!(生命、人生に)



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