第 5 章  剣 技





レゴラスが部屋を去ると、エルロヒアは勝ち誇ったようにエルラダンを見やりました。「もう落とした」エルロヒアが言いました。「あとは時間の問題だよ」

「かもしれないけど、エルロヒア、愛しい君」エルラダンが言いました。「帰郷に必要な補給品を確保するまでは僕たちのほうから事を起こすのは控えよう。闇の森を抜けて霧降り山脈を越えるってのに、木の皮と雨水だけしか口にできないんじゃあんまりだろ?」

「わかってるよ! 誰にもばれないように、慎重に、だろ?」エルロヒアが言います。「あの子ったら、もうすっかり熟して食べごろだ。あぁ、もう舌にあの子を感じるよ!」

「ほんとにあの子のことが気に入ったんだな」エルラダンは指でエルロヒアの顎をとらえました。「一番大切なのが誰なのかってこと、忘れるなよ」エルラダンはそう言うと、乱暴に弟を引き寄せて口づけました。

「妬いてるの? まだ何もしてないっていうのに? あぁ兄弟!」エルロヒアの目が悪戯っ子のように輝きました。「じゃあ君があの可愛い闇の森の王子を忘れさせてくれる?」

「お望みかい? 我が愛しのエルロ」

エルラダンはそう言うと勢いよく椅子から立ち上がりました。それからエルロヒアの上半身を両腕で抱え、椅子から絨毯のうえへと放り出します。逃げ出そうとするエルロヒアの上にまたがって、双子の兄は弟の体中をくすぐりはじめました。エルロヒアはくすぐったさに息を切らせて笑いながら、身をよじって暴れています。エルラダンは弟のからだを自分の脚の間ではさんでいる、その感触が大好きでした。エルロヒアが暴れると脚のあいだが刺激され、次第にエルラダンのそこが大きさを増していきました。

エルラダンは弟のブーツを投げ捨て、腰の止め紐を素早く解くと、一気に弟からレギンスを脱がせてしまいました。エルロヒアはそんな兄を煽るかのように抵抗を続けています。エルラダンが弟のチュニックをまくりあげて頭から脱がせてしまうと、弟の広い肩と細身ながらくっきりと筋肉の浮かんだ上半身があらわとなりました。なんて美しいんだ! エルラダンは双子の弟の胸元へと手を伸ばし、指で乳首をつまみました。いますぐ彼の奥深くに突き入れたい、ひとつにつながりたい。エルラダンは抑えきれない欲求を感じました。待ち続けた時間はあまりに長かったのです。

エルロヒアは頬を上気させ、思わせぶりにエルラダンを見上げました。「で、どうするの? 君はまだ服を着てるけど、そこからどいた瞬間、僕は逃げ出すからね」

エルラダンは素早く立ち上がって部屋の向こうまで走ると、扉にがちゃりとかんぬきをかけました。「親愛なる兄弟、残念だったな! この部屋からはもう出られないし、どこにも逃げ場はないんだ」

エルラダンは一枚ずつ服を脱ぎ捨てながら、ゆっくりとエルロヒアに近づいていきました。いったん立ち止まってブーツを脱ぐと、レギンスを降ろして、見せつけるように上向いた男根を取り出します。

エルロヒアはさもびっくりしたように飛び起きて目をぱちくりさせました。「兄さん! その脚の間にある怪物みたいなものはなに? …… まさかそれをぼくに、なんてこと考えてないだろうね?」

「悪くないな」エルラダンはそう言うと、テーブルの皿から指でバターをすくい、自分のものにまんべんなく塗りつけました。「はやくこっちに来るんだ、この性悪。お仕置きだ」

エルロヒアは笑いながら軽やかに逃げだしました。寝台をはさんで兄弟は向かい合い、お互いをけん制しながら右へ左へと、ぐるぐると寝台のまわりを回りました。エルロヒアが部屋の反対側に飛び出そうとすると、エルラダンの片手が弟の肩口にかかります。エルラダンは弟の体をくるりと返して、寝台へと押し倒しました。

エルラダンは弟の上にのしかかって、もう一度エルロヒアの息が止まるまでくすぐり笑わせました。肌に感じる弟の肌は、温かく滑らかでした。2人の脚の間でたがいの棹がぶつかり合い、すり上げられ、まるで戦いのさなか剣が打ち合うように2人の男根がぶつかりました。

エルラダンはくすぐる手をとめて、まだ笑って息を切らせているエルロヒアの唇に覆いかぶさりました。口づけを深めていると、エルロヒアの昂ぶりがだんだんと質量を増していくのがわかります。しばし唇をむさぼると、エルラダンの唇は弟の上半身へと移動していきました。やがてエルロヒアの昂ぶりのすぐそばまできたエルラダンは、そこでいったん焦らすように顔を離し、一呼吸置いてから唇を寄せると、棹の先端のところをぺろりと舐めました。エルラダンはそのしょっぱくて甘い、ぬるっとした液体を舌に感じると、ますます興奮が高まりました。エルロヒアは身もだえして声をあげています。

「欲しい?」舌の動きはそのままに、エルラダンは弟に問いかけました。

「あ …… ん」エルロヒアがひゅうと息を吸い込みました。

エルラダンが身を起こしました。「それじゃわからない。エルロヒア。ちゃんと口で言って」

「お願いだよ、エルラダン! ああ神よ、もう耐えられない!」エルロヒアが叫びました。

双子の兄は弟のものをひと息に咥えこみました。エルラダンの喉奥にエルロヒアの堅い棒の先が当たりました。エルラダンは咥内に弟を咥えこんだまま、頭を上下に動かしはじめました。

「あぁ! すごくいい! ヴァラの与えたもうた歓びよ!」エルロヒアは快感の声をあげながら、もっと奥まで取り込まれるように腰を突き上げました。「あぁ、エルラダン、君の唇は --- すごい、いい」

エルラダンが身を離しました。「どういいのか言うんだ」

「僕につながればすぐわかるさ」エルロヒアがあえぎました。「あ! そう、もっと強く吸って。もっと奥まで深く、そう、あぁ!」

エルラダンは口を使って、弟の達するぎりぎりのところまで吸い上げました。エルロヒアが洩らす愉悦の声に喜びながらも、エルラダンはふと口を離しました。エルロヒアが不満の声を上げました。

「口でするよりももっといいことがあるだろ」

エルロヒアは片肘をついて身を起こすと、エルラダンに向かって艶かしい視線を投げました。「さあ、なんのことだろう? …… よくわからないな」

エルラダンは寝台から降りて後方に立つと、弟に見せつけるようにして自分の男根をしごき始めました。「僕のこれは君のために存在してるんだ」エルラダンがそう囁くと、エルロヒアは両目をしばたたき、わずかに唇を開きました。

エルラダンはすばやく弟を寝台の端へと引き倒し、両脚を抱えあげて肩に乗せました。自身をエルロヒアの窪みへと押し付けてから、エルラダンはふとためらいがちにもうひとりの片割れの目を覗き込みました。「ああエルロヒア、ぼくの愛しい君。…… してもいいかい?」エルラダンはそっとたずねました。

エルロヒアは淫猥な色に染まった瞳を伏せながらエルラダンを見上げました。「…… して」エルロヒアが言いました。「僕が考え直す前に、いますぐにして!」

エルラダンの手が尻に落ち、指のバターをエルロヒアの穴へとなすりつけました。そしてエルラダンの男根がひと息にエルロヒアをを貫きました。エルロヒアは背を反らせて頭を振り、あえぎ声を洩らしました。

「こうされるのが感じるんだろ?」腰を動かし、奥を穿つように抜き差ししながらエルラダンが言いました。「そしてこうされるのも」

「あぁ …… もっと」エルロヒアはうめきました。「あぁ、そう、もっと、強く突いて!」

エルラダンは寝台に両手をついて上半身を倒すと、激しく突き上げました。エルロヒアの穴はきゅうきゅうと兄を締め付け、これ以上ないほどの最高の感覚をもたらしました。

エルロヒアは恋人をより深く迎え入れようと、両ひざを引いてさらに脚を広げました。両の腕は寝台に投げ出され、エルラダンの穿つリズムにあわせて前後に体が揺れています。寝台がぎしぎしと音をたてました。端正な面差しを恍惚にゆがませながら、エルロヒアは手を下に伸ばして自身をにぎりました。

「…… すごい、いい」エルロヒアがうめきました。「エルラダン、こんな風に僕をいっぱいにできるのは君だけ、君しかいない、他のだれにもできない」

エルラダンはエルロヒアと自分の意識が融合しはじめるのを感じました。互いの思考が混ざり合い、ひとつになっていきます。「ウトゥリエン(我来たり)」エルラダンは弟に思考を飛ばしました。「つながってる。エルロ、君を感じる、愛しい君、我が誘惑、僕が一番求めているのは君」待ち望んでいたこの融合と、2人の魂がひとつになり完全となったその歓びが相まって、エルラダンは頭がくらくらしてきました。

「エルラダン、あぁ我が歓び、心の星、…… お願い、もっと激しく!」エルロヒアがきれぎれの息で叫びました。「ああ! いく!」エルロヒアは首を後ろにのけぞらせて長く尾を引くような叫び声をあげ、濃いどろりとした液体を2人の胸の間にはじけさせました。

エルラダンは弟の尻たぶに袋を打ち付けながら最奥を突き上げていました。自分の肌に熱い白濁が飛び散るのを感じた瞬間、エルラダンもまた押し寄せる波のような快感の渦に巻き込まれ、エルロヒアの最奥に自らの精を放たずにはいれませんでした。エルラダンは自分の快感と同時に、自分のものとは違う、弟の快感が意識に入り込んでくるのを感じました。嵐のようなこの2重の感覚、快感に、エルラダンはこれ以上ない魂の安らぎと恍惚とを感じました。

「は! ------ あぁ!」エルラダンがうめきながら弟の胸に倒れこみました。エルラダンは弟の頬にぴったりと自分の頬を沿わせて、しばらくそのまま息を切らせました。快楽の余韻はまだ感じられます。エルロヒアの体がぴくりと震えました。

エルラダンが敷布をたぐり寄せて、互いの胸に飛び散ったものを拭きとりました。

エルロヒアはうつ伏せになると、黙ってそのまま動かなくなりました。突然エルラダンはいつもの、あの余波が襲ってくるのを感じました。エルラダンは胸を押さえ、あの何ともいえない大きな哀しみがつむじ風のように吹きすぎるのをただじっと待ちました。エルラダンは弟の左手をとってその手に口づけました。「大丈夫? エルロヒア」

顔を上げたエルロヒアの瞳にはあふれんばかりの涙が光っていました。「君を愛してる。愛しすぎなのがいけないんだ」エルロヒアは言いました。「…… 君とするのは良すぎるから。ほんの少しの間でも、心がすっかり安らいで、僕たちには何も欠けていないって感じられるから」

「エルロヒア、愛しい君、そう感じてるのは僕だって同じだ。だからこんな、まるでなにかに駆られるみたいに、きみを求めずにはいられないんだ」エルラダンが言いました。「今はこの哀しみも感じるけど ……」

「これはヴァラの呪いさ。わかるだろ? この罪悪感ときたら僕たちの愛と同じくらい強い」エルロヒアがか細い声でささやきました。「そう、この歓びを得るかわりにいつかぼくらは代償を求められる、そんな気がして、ぼくはこわくてしかたないんだ」エルロヒアの頬を涙がひとすじ流れ落ちました。

「ぼくにはその答えはわからない」エルラダンはそう言うと弟を胸に抱き、あやすように揺らしながら、まぶたと額にそっと口づけました。エルロヒアは安心したようにほっと息をつきました。エルラダンは弟が眠りにつくまでそのまま、弟の吐息に耳を傾けました。

誘惑に負けるんじゃなかった、僕が我慢するべきだった。そう思うとエルラダンの胸は罪悪感でさいなまれました。自分たちがひとつになるたびにエルロヒアはこうやって苦しむのです。そんな弟の姿を目にするのは耐えられないことでした。暗い絶望に打ちひしがれながら、エルラダンは立ち上がって弟を掛布で覆うと、ランプの火を消しました。それからエルロヒアの横にもぐりこんで、弟の胸に腕をまわすとその体をしっかりと引き寄せました。エルラダンは2人の鼓動がひとつになるまでずっと、身じろぎもせず心音に耳を傾けていました。



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タラガンはナイン王らの滞在する居室へと続いている前室の扉を開けました。ナインは半ダースほどのドワーフに囲まれて、大きな椅子に深々と座って卓についています。ドワーフたちの目の前には山と詰まれた皿とコップ、盛大な朝食の後が伺えました。タラガンは昨夜のことを思い出してため息をつきました。結局、昨晩ナインは「ドワーフ彫刻に飾られたスランドュイル王宮の詠歌」という自作の歌を30節にもわたってとうとうと吟じ続けたのです。そのあとタラガンはまたスランドュイルの部屋に呼ばれてさんざん文句を聞かされる羽目になりました。一曲をあんなに長く伸ばせる能力と、すべての句がしっかり韻を踏んでいた点についてだけは、タラガンはこのドワーフ王の詩歌の才能を認めざるを得ないと思いました。

ナイン王は椅子に足を開いて座っていました。彼のつやつやとした黒ひげは金のより糸とともにいくつもの房に編み分けられています。深紅の上着には金糸で刺繍された槌と鉄床(かなとこ)の文様。ナインはどっしりとした体格をしていて、長いかぎ鼻に奥目がちな瞳が賢そうに輝いていました。タラガンはふと、このナイン王はドワーフにしては見ばえがいいほうかもしれないと思いました。それよりも、とにかくナイン王が闇の森に何を求めているのかをはやく突き止めなくてはなりませんでした。

「お呼びになりましたでしょうか、陛下」タラガンが言いました。

「うむ確かに呼んだぞ、タラガン。スランドュイル王の侍従長なる貴殿に、ぜひご助言をいただきたく思うのだ」

タラガンはナイン王に軽く頭を下げました。「わたくしでお役に立つことがあれば、なんでもお申し付けくださいませ」

ふとナインが壁に目をやりました。「おあっ、ドゥリンのひげよ! 一体あれはなんだ!?」ナインは壁を指差して叫びました。

タラガンが急いでその方向を見たときには、長い火とかげの尾っぽが壁の隙間にささっと消えるところでした。

「心配はご無用です、殿。ただの害虫でございます。すぐに退治させましょう」

「早急に頼んだぞ。おお、見ただけで血が凍る!」ナインの声は少しうろたえたように聞こえました。

ナインは相談役らの視線で気を取り直したようにひげをさすりました。

「ああところでだな、侍従長殿」ナインは今度は腹に響くような声で言いました。「もしこのわたしが貴殿の仕える王に贈り物を捧げたいと申し出たならば、王はなんと申されるだろうか?」従者に合図すると小さな木箱が運ばれてきました。ナインは箱を開けてみせました。箱の中にはエメラルドとダイアモンドに飾られた、重そうな金の指輪がありました。

タラガンは驚きの声を抑えられませんでした。が、すぐに表面上は平静を取り繕って、こうナインに告げました。「もちろん、王は大変お喜びになられると思います。--- ですが一体、どうしてこのようなものをわが王に?」

「歓待に対する私からの感謝のしるしだ。それにわたしは王の人柄を大変、お慕い申し上げるようになった」ナインが言います。「…… ぜひわたしのこの気持ちを伝えたいと思ってな」

ナインの相談役のひとりがあきれたように目をしばたいて首を振るのがタラガンの目に入りました。タラガンもつとめて表情を抑えようとするのですがその唇の端はひくひくと動きました。

「この贈り物はたいへん王のお気にめすと思うのですが …… わが王は付き合いの長い、ごくわずかな者にしか愛情を示されないお方でございます ……」

「かのエルフ王が慎重な性格であらせられるというのか。それは解しがたい」ナインが口を挟みました。「どちらかというとあの方は、嵐のように激しいご気性で、気分次第でずいぶんと変わられるのではないかな。もちろん、そこがあの方の最大の魅力でもあるのだがね」そういうとナインは笑みを浮かべました。

「わが王は必要とあらば、ときには大変慎重にもなられる方でございます」タラガンは続けました。それから少し間を置いてからこう切り出しました。「殿、王は今回のご来訪の理由について、大変ご関心をお持ちなのですが ……」

「そのことについてはわたしのほうから時を見計らって話そうと思っていたのだがな」ナイン王はむっとした様子で言いました。

「ああそれはもう! もちろんでございます」タラガンはあわててそう言いつくろうと、朝食の残骸を指し示しました。「宮殿のものにあちらを片付けさせましょう。ところで武技大会は今夜、晩餐のまえに行なわれる予定でございます。よろしくお願いいたします」

「うむ、エルフのなかでも選り抜きの戦士たちが腕を競うさまを拝見できるとは、まことに楽しみ」ナインが重々しい様子で言いました。「世に名高いエルフの戦いぶりをしかと見せていただきますぞ」

「御意」タラガンは深くお辞儀をするとその場を辞しました。



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ナインは侍従長の細面をずっと観察していたので、贈り物を取り出してみせたときのタラガンのびっくり顔にももちろん気が付いていました。タラガンが出て行くとナインは気持ちよさげに笑い出しました。

「まさか陛下は、このエルフ王を口説こうというおつもりではないでしょうな?」相談役のひとりが手をもみながら訊ねました。

「グルンディン、もしそうだと言ったらどうなのだ?」ナインの声は低くうなるようでした。

「陛下、われらドワーフ族にとって、それは不敬罪ともいえますぞ!」別のドワーフがよく響く低音で言いました。「それによりによってあの指輪、あれをエルフ王に贈るなど! 断固わたくしは許せません!」

「そうではない、ノリン。気に病むことなどないのだ。あれは見たとおりのものではないのだからな。…… ドワーフとエルフが互いに不信感を抱くようになって、もうずいぶん長い」ナインはひげをさすりながら思慮深げに言いました。「このエルフ王がどれほどの器量の持ち主か、わたしは見極めたいのだよ」



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「あいつが!? なんだってー!?」スランドュイルはあまりの驚きに羽根ペンを投げ捨て、巻物の散らばる書卓からすっくと立ち上がりました。

「…… どうやらナインは陛下にご執心のようでございます」タラガンはもう一度そう言うと、王の剣幕に一歩後じさりました。どうしてまたこんなことになってしまったのでしょうか? しかしタラガンには理解できないこともありませんでした。スランドュイルの強烈な美しさはあきらめを知らない者を大変に惹きつけるところがあって、それはまるで炎が蛾を惹きつけるがごとくなのでした。

「んぐぁあ!」スランドュイル王が不快のあまりにとんでもなく変な顔をするので、タラガンは笑いそうになる自分を必死に諌めました。

「ナインはその …… この親愛の証として王に贈り物をしたい、と申し出ております。わたくしは指輪を見せられました」タラガンは続けました。

「もうよい、タラガン! ついに堪忍袋の緒が切れた! いますぐあいつをつまみ出せ!」

「陛下、性急にことを進めるべきではございません。ナインの本当の目的がなんなのか、こちらにはまだわからないのですよ? そのうち自ら理由を明かす、ナインははっきりそう申しました」

「そのうち、だと? で、それはいったいいつのことなんだ? 宮殿の食糧を全部食い尽くして、おれを寝室に引きずり込んで、それからか? ありえんぞ!」スランドュイルはその場を行ったり来たりし始めました。それから突然歩みを止めるとスランドュイルの脚にばさりと衣がまとわりつきました。「タラガン、こういうのはどうだ?」

「はい、陛下?」執事の声は心なしかやつれていました。

「歩きながら話す」スランドュイルはそう言うとまた立ち止まりました。その表情には不思議な色が宿ります。「タラガン、やつが贈るというその指輪だが …… もう少し詳しく説明しろ」



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夜に競技が行なわれる予定の屋外の円形闘技場では、階段に座って両手であごを支えたレゴラスが練習する双子たちの様子を見つめていました。双子たちはくじびきで決まった今夜の武器、両手剣を使っています。2人のチュニックは袖をひじまでまくられ、裾が風にはためきました。午後の陽射しが2人の耳のダイヤモンドにきらめき、階段の白い岩に虹のような光を落としています。双子たちはまるでゆっくり流れる舞を踊るように、互いの剣を正確かつ力強く打ち交わしていました。鋭い金属音が闘技場に反響しました。

「で、どう思う? レゴラス」

王子が振り返ると、兄フェレディアがこちらに階段を上がってくるのが目に入りました。フェレディアはレゴラスの隣へと腰を下ろしました。

「かなり手強い相手になりそうだよ」レゴラスが言います。

「ふん、どれほどのもんだろうな」フェレディアは揶揄するように言いました。「イムラドリスから来たんだろう。あそこで有名なのは学問の道で、武の道じゃない。おまけにあいつらときたら半分人間じゃないか」

「フェレディア、もう少しその眼をよく使って見てみなよ」レゴラスが言いました。「あの2人は人間の力強さとエルフの敏捷さを両方兼ね備えてる。それに学んだのがどこだろうが、あの2人の剣の腕は確かだ。心してかからないと厳しいと思うよ」

「心配いらないさ、レゴラス」フェレディアが言いました。「けどおまえ、あの2人をしばらく観察してたんだったら何か役立つことがわかったろう。作戦は?」

「フェレディア、君の腕力は僕より上だ。だから君はエルラダンと闘うほうがいい。エルロヒアの戦法は僕のと似てる」レゴラスが言います。

「そもそもあの2人をどうやって見分けるっていうんだ? おまえはわかるのか?」フェレディアが信じられないといった風に言いました。

「微妙に違うんだよ。でもとりあえず簡単な方法はイヤリング。エルラダンが右耳で、エルロヒアは左」

「まったく鏡みたいだな。隅から隅までそっくり。見てるとぞっとするよ」フェレディアが言います。「…… どこかおかしいよ、あの2人は」

「僕はあの2人は …… すごく魅力的だと思う。おかしいなんて思わないね」レゴラスがそっと言いました。「まるで彼らは神の造りたもうた完全な生き物で、神たちはその出来上がりに喜んで、もうひとつ同じのを造った …… そんな気にさせられるよ」

フェレディアが鋭い一瞥を投げました。「レゴラス、あいつらはペレジルでノルドール、違う種族だぞ。もうひとつ言えば奴らは一度、ここでひどい振る舞いをして父さんに追放されてるんだ。レゴラス、弟よ、あいつらに気を許すな。堕落させられるぞ」フェレディアは立ち上がり、怒ったようにその場を去りました。

鋼と鋼の打ち鳴らされる音が響いています。エルラダンが頭上から振り下ろした剣を、エルロヒアが頭上で受けているところでした。エルロヒアの剣は地面に平行に掲げられ、両腕は脇に弧を描き、腰を落とした見事な構えです。

なんて美しいんだろう。レゴラスはほぅ、とため息をつきました。あの2人にだったら堕落させられても構わないのに。






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