Unwilling Consort









Part 4

「はぁー ……」 レゴラスは大きなため息をついた。

レゴラスはこれ以上ないくらい退屈していた。 双子たちにさらわれてイムラドリスにきた日から早くも2週間が過ぎていた。

身にまとえるものといったら、ベッドの上掛けの絹の薄物だけ。 抱くときに脱がせるのが邪魔、そう言って双子は着るものをレゴラスに与えなかった。

レゴラスは今一度、あたりを見渡した。 室内の柱や天井に施された精緻な蔦模様も、 寝台のヘッドボードを飾る古えの物語の見事な彫刻もいいかげんすっかり見飽きていた。

レゴラスはバルコニー石造りの手すりの向こうに視線をさまよわせた。 そこから目に入る風景は壮大で、太陽の光はレゴラスを誘うようだった。 レゴラスは瞼を閉じ、すべての音を耳で感じようとした。

足を動かすとちゃり、と鎖の音がして、レゴラスを現実に引き戻す。 あのバルコニーにすら、出ることができないのだ。 レゴラスの主となった双子たちが仕事で部屋を空ける際、レゴラスは部屋に幽閉されたままだった。 レゴラスの右の足首を、銀の足枷がベッドに繋いでいた。 分厚い革が冷たい金属の下、足首を守るよう巻かれている。 レゴラスの動ける範囲は鎖が届くほんの2フィートほどの距離だけだった。

毎日、朝であれ夜であれ、レゴラスは不安と恐怖に心が休まらなかった。 瞼を閉じれば悪夢に襲われた。 レゴラスはただ目の前の空間をじっと見つめ、白昼夢に楽しかった頃の記憶を再現したり、 自分の運命を悲しんだりして時を過ごしていた。 そうすることにも飽きてしまえばそのまま不安な眠りに落ちるだけ。 精神的にも肉体的にもレゴラスは憔悴しきっていた。

外界との接触といえるものは正午と夜に食事と飲み物を運ぶ召使のエルフの存在だけだった。 しかし食事を乗せた盆をベッドに置けばこのエルフは無言のまま、目も合わせず部屋から去っていく。 レゴラスは幾度かこのエルフに話しかけてみた。 けれどもレゴラスの問いかけにこのエルフはいっさい答えようとしなかった。

今日もまた、いつものように部屋の扉が開いた。 どうせまた召使がきたのだろう、レゴラスはそう思い、 誰が入ってきたのか見なかった。

ちっとも空腹ではない、盆は持って帰るように、そう言おうとしてレゴラスは振り向いた。 しかしそこにいたのは見たことのない金髪のエルフだった。 物腰も身なりも、このエルフは召使とはずいぶん異なっていた。 髪には戦士を表す編みこみがある。 王子は驚きと不安に目を細め、目の前のエルフをじっと見た。

背が高く、優美な物腰の金髪のエルフはレゴラスの視線をものともせず見つめ返してきた。 ぶしつけなその視線にレゴラスは髪の毛が逆立つような感覚を味わった。

目の前のエルフは黙ってレゴラスに近寄ると背を屈めた。 反射的に逃げようとしたレゴラスの動きは鎖に阻まれる。 鼓動が高まり、王子の表情に恐れの色が浮かんだ。

するとエルフは鍵を取り出して、ゆっくりとレゴラスの右足に近づいた。 銀の瞳で王子を見つめながらそっと足枷を外していく。 その動作からはエルフが王子をこれ以上怯えさせないよう配慮しているのが見て取れた。

手の届かない椅子にかけてあった長衣をエルフがほうってよこす。 レゴラスは受け取ると急いでそれを身にまとった。

エルフの手がすっと伸びてきてレゴラスの手首をつかんだ。 反射的に逃げようとしたレゴラスだったが、 振りほどこうともがいても手首を握った力は強くなるばかりだった。

エルフはレゴラスを部屋から連れ出した。 どこに向かうのかはわからない。 それでもあの息苦しい空間から出られるチャンスができて、レゴラスはほっとした。 逃げても無駄、あっという間に捕まって永遠に部屋から出られる機会を失うだけなのは目に見えていた。

シンダールのエルフを連れ歩くグロールフィンデルを、たくさんのエルフが足を止めじっと見つめていた。 歩幅の大きいエルフについて歩こうとするレゴラスは幾度もつまづいた。 エルフたちが自分を見つめる眼は驚きと、憎しみに溢れていた。 それだけではない。多くのエルフが欲望のこもった眼差しでレゴラスを見ていた。 どんな邪まな考えが彼らの頭を占めているだろうと思うとレゴラスは顔を赤くした。

イムラドリスの名高い庭園のなかをグロールフィンデルはレゴラスを連れ歩き続けた。 そこは木々と、湖と、花畑の広がる巨大な迷路のようだった。 蔦のからまるアーチと白い柵が2人の歩く小道に続いていた。 小道は磨き上げられたいろとりどりの大理石で敷き詰められ、その両側は黒く丸い小石で縁どられていた。 雪を頂く山々の尾根、そして轟音の響く大きな滝が彼方に見えていた。

湖面に枝を垂らした大きな柳の木のところでエルフは立ち止まった。

手首を離してもらえそうにはなかったが、とりあえず、 このエルフはレゴラスに周りの景色を味わう時間を 与えてくれているようだった。 グロールフィンデルはまだ年端も行かないこのエルフが木々のなか草を踏み歩きたい、 外に出たい、そう願っているのを知っていた。 王子があたりを見回し、小さくため息をついたのをグロールフィンデルは聞きのがさなかった。

グロールフィンデルは隣に立つエルフをちらりと盗み見た。 滑らかな布でできた長衣の空色は自分より一回り以上も小さいこのエルフの紺碧の瞳によく似合っていて、 王子を一段と美しく見せていた。 レゴラスにはゆるすぎる長衣の襟ぐりから鎖骨がのぞき、匂うような色香が漂っていた。

グロールフィンデルはもう我慢できなかった。 このエルフの姿、首の下あらわにのぞく鎖骨を目にしただけで、 エルダールはすっかり自身を堅くさせていた。 手を伸ばし、柔らかい頬に触れてみる。その手の感触にレゴラスは思わず身をすくめた。 レゴラスが震えだす。呼吸は浅く、短かくなった。

グロールフィンデルは笑みを浮かべると、さらに大胆な行動にでた。 エルダールはいきなり王子を押し倒すと荒々しく王子の唇に自分の唇を押し付ける。 いきり立った自身を王子の下腹部に主張するかのようにすりつけた。

危険を感じたレゴラスがグロールフィンデルを押しのけようとする。 あまりの恐怖で声にならない悲鳴が喉から漏れた。

グロールフィンデルは王子を立たせると細い体にしっかりと腕を回して庭園の奥へと向かって歩きはじめた。 レゴラスが暴れ、腕を振りほどく。すぐにレゴラスは駆け出した。

レゴラスは泣きながら走っていた。 やがて誰も追いかけてくる様子がないのに気づき、 レゴラスは後ろを振り返った。そこには誰もいなかった。

するとレゴラスは背の高いエルフにぶつかった。 目の前のエルフはすぐにレゴラスを捕まえた。

あの金髪のエルフに捕まったと思い、レゴラスは怯えながら目線を上げた。 しかし、そこにいたのはエルラダンだった。レゴラスはなぜかほっとした。 自分の主人なのだ。きっと傍若無人なあのエルフから守ってくれる、そうレゴラスは思った。

「ちょうどお前を探してた。そっちから走りこんでくるとはな」  エルラダンが低い声で言った。

その口調にレゴラスは思わず身を固くした。

エルラダンはぐいとレゴラスを押すと、つい先ほど王子が逃げてきた方に向かって歩き始めた。 レゴラスは嫌々、引かれるままに歩いていった。

驚いたことに、グロールフィンデルはさっきと同じ樫の木の下で、気だるそうに2人を待っていた。 エルラダンとその(しもべ)、 2人が連れ立ってやってきたのを見とめると、エルダールはいま一度、にやりと笑う。 レゴラスははっと息を呑んだ。 エルラダンが自分をどうしようとしているのか、レゴラスはそのときやっと理解した。

エルラダンはレゴラスの体を乱暴に木に押し付けると、レゴラスの右手を頭上に高く上げさせた。 そうしておいてからレゴラスの主は残酷なことをした。 懐から半貴石に彩られた美しい小刀を取り出すと、 エルラダンはその小刀をレゴラスの白い手のひらに突きたてた。

右手を貫く恐ろしい痛みにレゴラスが絶叫した。 木の幹に縫い止められた手のひらは下ろすことはもちろん、そこから一歩も動くことはできなかった。

「さあこれでいい。好きなようにしろよ、グロールフィンデル」  ほのめかすように告げる。 エルラダンは目にぎらぎらと光を宿し、グロールフィンデルに捕獲者のような不敵な笑みを向けた。

配偶者とすべく連れてきた筈のエルフに対するこの仕打ちに グロールフィンデルは内心驚いたが何も言わなかった。 目の前のエルフは欲望を煽るようにか細く喘いでいる。 グロールフィンデルはもう迷わなかった。

グロールフィンデルは王子の服を引き裂くような勢いで脱がせると、 その白い肌に荒々しく、それから優しく触れていった。 肩に舌を這わせ、それから胸、耳をねぶる。 思っても見なかった快感に王子が身を震わせた。 グロールフィンデルは唇に吸い付くとあらんかぎりの勢いで王子の唇をむさぼった。

汗濡れた体を手でくまなく探っていると、 グロールフィンデルは自分の股間が燃え上がり、痛いほど昂ぶるのを感じていた。 今すぐにこの体に自身を埋め込みたい、もうそのことしか考えられなかった。 止めてと懇願する弱々しい王子の声は、服を脱ぎ捨てるグロールフィンデルの耳には入らなかった。

痛みに悶えるエルフに体を密着させると汗濡れた肌が燃えるように熱かった。 もうこれ以上抑えられない、 そう思ったグロールフィンデルは王子の片足を抱え上げ、 その窪みに無理やり自身を突きいれた。

手のひらからくる痛み、そして下半身を貫くもうひとつの痛み。 レゴラスはもう耐えられなかった。しかし動くことはできない。 グロールフィンデルが突き上げレゴラスの体を揺り動かすたびに、手のひらの傷口が広がって行く。 奥を突かれるたびレゴラスが悲鳴を上げ、腕から血がたらたらと流れおちた。 見守るエルラダンはその光景に自分のものがどんどんと堅さを増すのを感じていた。

きつい。グロールフィンデルの男根を燃えるような熱でレゴラスの内壁が締め上げていた。 無理な出し入れを受けいれるしかないレゴラスの穴からも血がしたたり落ち、 それを潤滑剤にやがてグロールフィンデルも楽に出し入れできるようになった。

片手で足を抱え上げさせながら、もう片方の手で尻を掴み突き上げる。 絶頂が近づいてきたのを感じてグロールフィンデルはさらに律動を早め、力をこめて突き上げた。

血まみれの王子のなかに出してしまうとグロールフィンデルはずるりと自身を引き抜いた。 汗だくで息も荒いまま脇にのく。まっすぐに立とうとしているものの王子の足はがくがくと震えていた。 手のひらは木に縫い止められたまま、傷を広げないよう動くことも座ることもできなかった。

今度はエルラダンの番だった。エルラダンはグロールフィンデルよりも手荒に王子を抱いた。 エルラダンの快感の声、そして王子が泣き叫び、激痛に耐えかねて絶叫する声だけが森に響いていた。





エルフの若者は体中傷だらけでぐったりとしていた。 グロールフィンデルの見る限り、 エルラダンは配偶者としたこの若いエルフに苦痛と恐怖を与えることを楽しんでさえいるようだった。

王子を哀れに思ったグロールフィンデルはエルラダンの機嫌を損ねるのもかまわず、 意識のないエルフを抱き上げ癒しの間に運んでいった。

もしこれが戦いの場なら、この金髪のエルダールがシンダールのエルフを殺すことなど戸惑うはずもなかった。 しかしこのエルフはまだ子どもで …… そのような憎しみとはあまりに無縁な存在だった。

レゴラスに対しあんなひどい真似をしてしまった、 そう考えるとグロールフィンデルは少なからず罪悪感を感じた。 まだ若く美しい王子に対してあんなひどいことをするのは、決して良いことではなかった。 しかし抵抗できない王子を目にしたあのとき、グロールフィンデルは欲望に負けてしまった。

ぴくりとも動かない体をベッドに横たえると、 グロールフィンデルは召使を呼びとめエルロンドを呼ぶように言った。 この若者があまりにも早くマンドスの館へと行ってしまうのではないか、 …… グロールフィンデルは不安に駆られていた。

エルフは繊細な生き物だった。 肉体的には強靭でも、精神にダメージを受けるとあっけなく逝ってしまうこともある。 意思に反して体を奪われた場合は特に危険だった。


エルロンド卿が心配げな表情を浮かべて癒しの間へと入ってきた。 大切な友人にもしやのことが、と思い急いで駆けつけたものの、 当のグロールフィンデルは、血だらけのエルフの傍ら、ベッドを見下ろしている。 とりあえずエルロンドはほっと息をついた。

エルロンドはベッドに近づいた。 そこにいたのは深い傷を負った王子だった。その姿に裂け谷の主はショックを受けた。 右の手のひらの深い刺し傷からとめどなく血が流れていた。鮮血は心もとなげに上下する裸の胸元まで汚している。 左の手首がいやな角度に折れ曲がっていた。上体と四肢に数え切れないほどの痣、下半身からも血。 顔は腫れ、呼吸は苦しげだった。





館の主の半エルフは長い長いため息をついて、 急に疲れたようにどさりと椅子に腰かけた。 グロールフィンデルも手伝ったが卿が薬草を調合し、全部の傷を手当てし終えるには2時間を要した。 金髪の戦士がちらりと卿をあおぎ見る。

「助かるだろうか?」 グロールフィンデルは静かにそうたずねた。

エルロンドは首を振った。金のエルフは胸が止まりそうだった。 目の前に横たわったエルフは青白く、どう見てもよい状態とはいえなかった。

「正直なところ、それはわたしにもわからない。 彼が癒えるか否か、それは彼自身の心の問題だからな」  そういいながら、卿の視線はずっとやせ細った王子に注がれたままだった。

卿の呟きにグロールフィンデルは思わず眉を上げた。 冥王に抗する軍勢を率いた力溢るる戦士でもあるこの裂け谷の主ともあろうものが、 現敵の家族であるこのシンダール・エルフの状態に胸を痛めている ……、 グロールフィンデルの耳にはいま確かにそう聞こえたのだ。


グロールフィンデルの様子に気づいて裂け谷の主が続けた。  「友よ、わたしは癒し手でもある。 生きるものはエルフに限らず、怪我や病に苦しむものは見過ごせない 性質(たち)なのだよ。 それに、敵対している間柄とはいえ ……、こんな手ひどく扱うというのはいかがなものだろうな」

グロールフィンデルはふと、自分の仕えるこの裂け谷の長すらも、 この美しくも無垢なエルフに惑わされてしまったのではという予感がした。 この王子なら手に入れたいと思うのも無理はない。 どこに行っても王子は驚きと欲望の眼差しで迎えられた。

エルロンドは眠るエルフをじっと見つめたままだった。

突然、王子が体を動かした。眠ったまま、まるでなにかに抗っているようだった。 乾ききった唇からは意味を成さない言葉が漏れてくる。 癒しの眠りにあるように、その瞼は閉じられたままだった。

エルロンドは立ち上がるとレゴラスの隣に腰を下ろした。 乱れた金の髪を顔からのけてやると、耳元で優しくなにかを囁きかける。 すると落ち着きを取り戻した王子はまた、眠りへと落ちて行った。

グロールフィンデルの心にきり、と痛みが走った。 己のしたことは許されないものだった。 さきほど目にした光景が眼前にありありとよみがえってきた。

震える体をまさぐって、おびえる王子に口付けると股間がこれ以上ないほど熱く漲った。 汗まみれの体に無理やり自身を埋め込むと全身が悦びでうち震えた。 目の前の蒼い瞳に浮かんでいたのは絶望の色、苦痛にあげる王子の悲鳴が森中に響いていた。

このエルフに刃向かわれたときエルラダンがどう反応したかグロールフィンデルは思いだした。 レゴラスの手に打ちつけた小刀をエルラダンが引き抜くと、力尽きたエルフは地べたに崩れ落ちた。

それでもエルラダンの手が近づいてきたのを察知すると、そんな力がどこに残っていたのか、レゴラスは もう一度激しく抵抗しはじめた。これにエルラダンは大きく苛立った。 エルラダンは王子の胸の上に馬乗りになった。

レゴラスの腕を挟むように、身動きできないようしておいてから、 エルラダンは激しく王子の顔を平手打ちし始めた。 王子はもう抵抗を止めていた。 それでもエルラダンの拳は止むことなく胸、腹へと降り続け、 やがて肋骨の折れる音がしてレゴラスの呼吸が明らかに不自然になったのち、 やっとエルラダンはレゴラスを殴る手を止めた。

殴られ続けた王子はもう抵抗するそぶりすら見せなかった。 それでもエルラダンはまだ足りないとでもいうかのように、 弱々しく振り払おうとしたレゴラスの左手を折った。 それからエルラダンはぼろぼろの王子を犯しはじめた。 レゴラスが叫べば叫ぶほど、エルラダンは勢いを増していた。

この拷問ともいえる暴力を止めなくては、そう頭では思うのに、 グロールフィンデルは目の前で展開するスローモーションのような光景を 魅入られたようにただ見つめることしかできなかった。 許しを乞い叫ぶ声、悲鳴、そして骨の折れる鈍い音までもが、 異様な誘惑とともにまざまざとグロールフィンデルの目の前に蘇ってきた。

動かぬ体のうえでついにエルラダンが果て、はじめてグロールフィンデルは我に帰ったのである。

黄金のエルダールはこのでき事を自分の友人でもある傍らのエルフに告白する勇気はなかった。 こんな重傷を負わせるのに加担したなんて、グロールフィンデルは自らを恥じずにはいられなかった。









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