第 2 章  夜 駆 け


レゴラスはどこか麻痺してしまったような気分のまま、 エルラダンとエルロヒアに連れられて厩舎へと向かっていました。 もう何も考えたくない、そう思っていた矢先に、 こうして2人にすべて任せていられるのは、実際、悪い心地ではありませんでした。

厩舎に着くと、馬番の少年は砦の石垣に腰掛け、天を仰ぎみて花火を見上げていました。 年の頃は16位、花火がひとつ上がる毎に、少年の表情に笑顔が (とも)ります。

エルラダンがこほんと咳払いをすると、少年は驚いた様子でエルフたちのほうに向きなおりました。 少年は岩壁から飛び降りると眼をまん丸くして3人の元へやってきました。

「あ、なにか」 少年は言いました。 「御用でしょうか?」

「馬を出したいんだけどいいかな?」 エルロヒアが言いました。

「こんな夜更けに、ですか?」 若者が問い返します。  「えっと、僕の方にはそういう命令は届いていないんですけど ……」

「王妃の兄の要求に、なにか問題でもあるのかな?」  エルラダンは馬番の少年に向かって大きく一歩踏み出すと、少しだけ威圧するように言いました。

少年は息を呑みました。目の前に立つ背の高いエルフを頭のてっぺんからつま先まで見回すと、 ちらりとエルロヒアのほうに目をやります。
「と、とんでもありません、旦那様。どの馬かおっしゃっていただけば今すぐ連れてきます」

「大丈夫、それには及ばないよ。でもちょっと別のお願いがあるんだけど、いいかな?」

「お願い?」

エルラダンは長い黒髪を揺らして身をかがめ、 少年の耳にしばらく何か囁くと王の居城であるシタデルのほうに向かって何か手振りで指し示しました。

「うまくやってくれれば、相応に礼はする。期待してくれて構わないよ」  エルラダンが言いました。

「まかせてください、旦那様」 
少年はエルロヒアとレゴラスをちらと見て、 ぴょこんと頭を下げると通りを駆け上ってゆきました。
  
「あの子になんて言ってたの?」 レゴラスがたずねます。

「戻るまでにちょっと用意しておきたいものがあってね」  エルラダンは笑みを浮かべ、王子の耳元にふっと息を吹きかけながら囁きました。  「レゴラス、今夜きみはすべてを忘れてしまうんだ。全部面倒みるつもりでいるんだから、まかせておいて」 

厩舎のなかに入ると何頭かの馬が軽くいななきました。 エルラダンはそのうちの一頭、すらりとした脚を持つ葦毛の馬に近寄ると、 その滑らかな首筋を手で撫でました。  「ティヌ、出かけるよ、いいかい?」 エルラダンが馬に語り掛けます。 馬は喉を鳴らすと嬉しそうにペレジルの頬に鼻面を摺り寄せました。

「僕たちは君のアロドで」 
エルロヒアが厩舎の囲いからアロドを出してやりながら言いました。 石を敷き詰めた厩舎の床にアロドの蹄が響きます。

「一緒に?」 レゴラスが問いました。

「そう、きみとギムリで彼も慣れてるだろ?」

エルフたちの後について馬が厩舎を出てきます。 レゴラスはアロドのたてがみを握ると鞍なしの背にひらりと飛び乗りました。 続いてエルロヒア、双子の弟がレゴラスの後ろに納まると、エルラダンもティヌの背に跨りました。 湾曲した石造りの都の道を右へ左へと下っていくと、馬たちの蹄の音が石畳に大きく響きます。 3人は5つの大門をすべて通り過ぎ、最後の大門をくぐり抜けました。 門番の兵が3人に向かって敬礼します。

松明の照らす道に出るとエルラダンが振り返りました。  「ペレンノール野を抜けてハーロンドへ」 そう言うとエルラダンの目が輝きました。 「行こう、河まで競争だ!」  双子の兄が前傾姿勢をとると、ティヌは道を外れて右のほうへと駆け出しました。

レゴラスとエルロヒアも脚で同時にアロドの脇腹を締めると、アロドが走り出しました。 レゴラスの脚の下、力強くも柔らかいアロドの筋肉が盛上がり、一定のリズムへと躍動し始めます。 エルロヒアがレゴラスの臍の下に腕を回します。 レゴラスの背にしっかりと密着した筋肉質の体がレゴラスと同じ律動で揺れ始めました。

深い闇の広がる夜の野に満月の光が銀と灰色の陰影を投げています。 アロドは時おり地表の土くれや障害物を避けたり飛び越えたりしながらひたすらに駆け続けました。 広野はミナスティリス襲撃の際、 サウロンの軍勢が掘った溝穴、投石機が引きずられた深い轍などでまだ無残に荒れ果てた状態のままでした。 この地が戦争の爪跡から完全に癒えるには、いったいどれ程の季節が必要となるだろう。 レゴラスは馬上で思いを馳せていました。 この魂の痛みが和らぐまで、通り過ぎる季節を、幾度、待てばいいんだろう?

凹凸の激しい平野を駆け抜けていくと、やがて涼しい風が吹き始めました。 風の勢いは段々と強まって、アロドの鬣がレゴラスの顔中をくすぐります。 レゴラスとエルロヒアの髪は吹く風に混ざり、金と黒に合わさってそよぎました。 身体中に響く蹄の振動と前後に揺れるアロドの首。 夜の野を自在に駆け巡るアロドの喜びがレゴラスにも伝わって、 なんともいえぬ爽快な気分でした。 胸奥をこみ上げてきた笑いがいつしか声を見つけ、 こんな感情がまだ残っていたことに、レゴラスは驚きました。

「少しは気が晴れた?」 エルロヒアが追い風に向かって声を張りました。

「ああ、ちょっとはね」 レゴラスが答えます。

「言っただろ? 風に当たるのがきみの薬だって」 ペレジルが言いました。 「僕と兄さんで考えた、きみの治療法のひとつだよ」  振り返って見ずともエルロヒアの笑顔がレゴラスに伝わりました。  「さあ、もう着く頃だ」

河の流れる音が耳に入りだすと、湿った金くさい空気がふわりと3人を包みこみました。 黒い影のように浮かび上がる幾つもの船影が、 マストに帆をはためかせながら岸壁の船着場に係留されています。 先に着いたエルラダンはティヌの隣に佇んで2人を待っていました。 アロドはスピードを落とすとエルラダンのそばに足を止めました。 エルロヒアがするりと馬を降りると、レゴラスも馬を降りました。

「どこに行くの?」 レゴラスが問いました。

「未来を訊ねに行くのさ」 エルラダンが答えます。

埠頭を歩いていくと双子たちの足音で木板がぎしぎしと音を立てました。 2人は一艘の見上げるような黒い船の前で立ち止まりました。 岸と船とを繋ぐ縄が、寄せては返す水面にあわせ、ぴんと張ってはたわんでいます。 エルラダンは係留ロープの上に飛び乗って、そのまま両手でバランスを取りながら、 河面の上に伸びる危うげな一本の線上をそのまま、デッキまで走って渡っていってしまいました。 残りの2人もエルラダンの後に続き、ひといきに縄を渡ります。 船上の3人は、緩やかに揺れる船の動きを足元で感じながら、 中央にある巨大な軋むマストにもたれかかりました。

「なぜ僕をここに連れてきたの?」 レゴラスが問いました。

「美しい君、きみはね、ものの見方を変える必要があると思うんだ」 エルラダンが言いました。  「振り返って、後ろを見てごらん」

レゴラスは振り返りました。美しい砦の街がはるか彼方に見えています。 段状に層をなす城壁の影を、灯火の黄色が点々と彩っています。 その頂点を成す塔の上空では色とりどりの光が小さな花粒のように散っていきました。 花火の音は一瞬遅れて、耳よりも体に振動が届きます。

「僕たちはいま、岐路に立ってる」 エルラダンが言いました。  「あの都は僕たちの過去。で、僕たちの未来はこの船 …… に託してしまうこともできる。 単純な話さ。今もし、そこの繋ぎを外してしまえば、 この船はこのままアンドュインを下って、海へと、僕たちを運んでくれるんだ。 さっきも言ったように、僕たち2人も、選ばないとならない。 君にとってのその選択は、それほど複雑なものじゃないだろう。 もともと不死であるきみはなにか本当に馬鹿げた事をしでかさないかぎり」  エルラダンがレゴラスの腕を取り、きりと眼を覗き込みました。  「問題となるのは何時発つかということ、それだけだ。 父の定めを受け継ぐ僕らにとっては加えてもうひとつ、 行くか行かないか、という選択もある」

「僕たちの妹は今宵、その選択をした。そして かの女の決断は、僕たちに喜びと同じくらい、大きな哀しみをもたらした」  エルロヒアはそう言うと振り返ってエルラダンを見やりました。

レゴラスはそのとき、自分がいかに己のことしか考えていなかったかということに思い当たりました。 この2人にとっても、今宵は甘くほろ苦いものだったに違いないのです。 父親と一緒に海を渡るべきか、中つ国に留まって妹と同じくここで死んでいくか。 妹の決断は翻って彼ら自身、自らの運命について考えさせた筈でした。 辿ってきた道程が喜びだけでなく悲しみにも等しく彩られているのは、この2人も同じでした。 レゴラス自身、いつか諦めねばならぬと知りながらアラゴルンの恋人となることを選んだのです。 そしていつしか時は流れ、ついにその日を迎えてしまったのでした。

レゴラスはもう空気に塩の味が感じられるようでした。 鬱屈した感情は風に洗われ流されたのか、 幾週間かぶりにレゴラスは心が軽くなったように感じました。 此処にはまだ、見るべき場所、そしてするに値することが残っている。 そう思うと、レゴラスは たとえこの胸の痛みがこれからもずっと自分の内に残っていくのだとしても、 なんとかやっていけるかもしれない、 急にそう考える事ができたのです。

「弟と僕はまだ、これからの自分たちの運命について、選択する準備ができてない」  エルラダンがおもむろに口を開きました。  「まだしばらくの間は此処に残って、 剣を持たない僕たちがどんなエルフだったかをもう一度、見つけたいと思ってるんだ。 感じるってことがどういうことだったのかを、改めて学び直すためにね」

「未来に関して、ひとつだけ確かなことがある」 エルロヒアが言いました。  「何がおきようと、僕たちは決して互いの側を離れない。 どうするか決めるときには2人で一緒に決断する。 このことだけは、もう誓ったんだ」

「彼は僕の魂の半身。たとえこの身が2つに裂かれたとしても、その側を離れることはできない」  エルラダンが言いました。双子たちは互いを見ると、そっと微笑しました。 エルラダンがエルロヒアの顎をとり、互いに見つめあうその様子を、 レゴラスはじっと見守りました。 2人の眼差しは柔らかく、月光が醸し出す濃い陰影に縁取られたその美しい横顔は 薄っすらと発光しているかのようでした。

2人は振り返ると今度はレゴラスにひたりと視線を合わせました。 エルロヒアが近づいてレゴラスに身を寄せると、 月に照らされて白銀に輝くその髪をひと房取って指に絡ませました。  「君に、話しておきたい秘密がある」

「大体見当はつくよ」  レゴラスが言いました。  「知り合ってもう長いんだ、 君たちのお互いを想う気持ちについては僕は …… よくわかってるつもりだよ」

エルラダンも近づいてくると、指をレゴラスの頬にすいと滑らせました。 
「でもそれがどれ程深いものかは、君は …… 知らない筈」 エルラダンは続けました。 
「禁じられたことだから、これまでは君にさえ …… 明かしてない」

「僕たちはね …… なんでも共有してるんだ」  エルロヒアはそう言って腕を伸ばすと、レゴラスの向こう側から兄の腰を引き寄せました。

「時には意識さえも、ね」 エルラダンが続けました。  「時々僕はエルロヒアのしていることが感じられる。それはエルロヒアも同じだ。 まるでどこから自分でどこからが相手のものなのか、わからないぐらいに、」

「ありえないくらい深く、完全になれる瞬間がある。この感覚は」  エルロヒアの声が耳元で甘く囁きかけます。  「僕ら以外とも共有できるんだ。或る …… 特別な …… 状況のもとで、だけどね」

「エステルと一緒にいるときと同じにはならないだろうけど、 僕たちの愛し合うその感覚を経験することはできる」  エルラダンはそう言うと、唇を使って闇の森の王子の首筋をなぞりました。

レゴラスの腰から下を熱い波が震わせました。 ああ神よ、この2人はいったい、何の話をしてるんだろう?  それでも過去の記憶を宿したままの体のほうは、爪弾かれたバイオリンの弦のように、 触れてくる双子たちへと自然に反応を返していたのでした。 エルロヒアが耳を軽く吸い上げると顔が熱く火照ります。 レゴラスはため息をついて2人の腕に身を預けました。

「ああ従弟殿、やっとおとなしく従う気になってくれたみたいだね」 エルラダンが囁きました。  「でもちゃんと、言葉にして言って欲しいんだ」  そう言いながら、横からレゴラスに腰をゆるく押し付けます。  「僕たちの愛を、君は共有したいかい?」

「うん」 レゴラスはか細い声でそう言うと頭をめぐらせ、貪るようにエルロヒアの唇を求めました。 応えるエルロヒアのほうも、 まるで熟した苺にかぶりつくように、 その柔らかい唇と舌でレゴラスの唇を味わっています。 ワインの味がするペレジルの口づけに、レゴラスは目がくらみそうでした。 両脇から横ざまに押し付けられる2人の下半身は、中心に昂ぶる堅いものの存在を感じます。 2人のしなやかな腰に腕を回しながら、レゴラスは低い喘ぎ声を洩らしました。

「ああ、もうそんな声を出しちゃうなんて、今夜君が感じるのはこれどころじゃ済まないよ」  エルラダンはそう囁いて手を伸ばすと、勃ち上がり始めた王子のそこをそっと手のひらでさすりあげました。 
「この調子じゃ夜が明ける頃にはきっと歓びにむせび泣いちゃってるんだろうな。 これ以上ないくらいの経験をさせてあげられるんだから」

レゴラスはエルロヒアとの蜜のような接吻から離れると、エルラダンに悪戯っぽい笑みを投げました。
「話はもう充分聞いたよ、エルロンドの息子殿。言うだけじゃないってこと、証明してみせて」

「おや、ずいぶん挑発的だな?」 エルラダンが声を上げると、双子たちは顔を見合わせてにっと笑いました。 
「美しい君、知ってると思うけど、僕たちは挑戦されると絶対に後には引けない性格なんだ。 賭けてもいい、今夜事が終わるまでに君はきっと、泣いて僕らに慈悲を乞うよ」

「その賭けにだったら負ける気はしないな」 レゴラスが笑いました。

「さあ、それはどうかな、王子ちゃん」  そう言うとエルラダンはレギンスの上に置いた指先で、レゴラスの股間を軽く揉みしだきました。 王子が、んっと息を呑み込みます。

エルロヒアはもうレゴラスの上着を紐解いて、 チュニックと上着を一緒に頭から脱がせていました。 王子の上半身が銀の月明かりに晒されると、 双子たちは歯で革手袋を引き抜きデッキの上へと放り投げました。 それから2人はそっと王子の肌に手を伸ばしました。

「わが誘惑の君、彼は美しいね、そうじゃないかい?」  王子の胸のなだらかな筋肉の起伏を撫でさすりながらエルラダンが問いました。

「ぼくはいつだってそう思ってたよ」 エルロヒアが言いました。 
「見てるだけで、もう、欲しくてたまらなくなるんだ」 
エルロヒアが左の乳首をつねって指のあいだにころころと転がしました。 レゴラスははっと声を上げました。

「いまのとか、悪くないよね? 愛しい君」 エルロヒアが問いました。 
「それに、こんなのも」 
屈みこんでレゴラスの胸に舌を這わせると、今度は舌で乳首の突起をもてあそびます。 反対側の突起にエルラダンも吸い付いてくると、レゴラスはまた声を上げて身をよじりました。 双子たちの唇は吸ったり舐めたりを繰り返しながらゆっくりとレゴラスの胸元を降りていき、 力の入ったレゴラスの腹筋の上で一旦、動きを止めました。 2人の舌がそこで出会い、絡み合います。 レゴラスのレギンスの紐をエルロヒアが紐解くと、 服の隙間からエルラダンの指が内側へと入り込み、 するりと下に降りて レゴラスの脈打つ昂ぶりを涼しい夜気に晒しました。 双子たちが膝をつくとレゴラスは期待に身体を震わせながら、2人の頭に手を置きました。

「綺麗だね、どこもかしこも」 エルラダンが重ねて言いました。 引き締まったレゴラスの尻たぶを手のひらで撫で回します。

「ほんとにね。覚えてた通りだ。わが美しの君、きみはすごく、いいよ」 
エルロヒアはそう言ってレゴラスの棹を手に取ると、口元に持っていって根元からつぅと舐め上げました。 エルラダンも反対側から同じようにレゴラスを舐めはじめます。 2人の舌は時おり触れ合いながら王子の男根をぐるりと舐めまわし、 両の手がやわやわと片方ずつ袋を弄んでいます。 ひとりが棹を口に入れてしばらく吸い上げると、顔を離してもうひとりに口づけます。 すると今度は口付けられたほうがまたレゴラスの棹に吸いつくのです。 交代で口淫を続ける2人の姿をレゴラスは快感に打ち震えながら見守りました。

「ああ神よ、君たちの才能のこと、思い出した」 
解放の瞬間がもう間際に迫ったのを感じながら、王子が呻くように言いました。
けれどもその瞬間、エルラダンはぎゅっとレゴラスの根元を強く押さえ込んでしまいました。 レゴラスから悲鳴のような声が上がります。

「おっとまだだよ、愛しい君」 双子の片割れが言いました。

「ああ! ひどいよ!」 レゴラスはぴくぴくと腰を震わせながら、 息も絶え絶えに唇を噛みました。

「もっとひどいことをいっぱいしてあげる、で、きみは僕たちに感謝するんだ」  そう言うエルロヒアの声からは笑いが聞こえるようでした。

「僕たち2人の希少な才能についてはしっかりと、みせてあげる。いいね? 兄弟」 
エルラダンがゆっくりと立ちあがりました。 上着の紐を解き、それからチュニックとともに頭から引き抜きます。 銀の明りに優美な影を作る逞しい胸板と、長年の戦いに隆起したその筋肉を、 レゴラスは魅入られたように眺めました。 吹いてきた風が夜の帳のようなエルラダンの黒髪を顔になびかせ、色の濃い乳首がぴんと勃ちあがります。 狼のようなその双眸は輝いて、唇は誘うようにゆっくりと開きました。

レゴラスはほぅとため息をつくと、 エルラダンのその滑らかな肌の上、上腕から胸元に向かって指先を滑らせました。 
「僕のことを綺麗だって言ってくれたけど」 王子が言いました。  「きみたち兄弟に叶うものなんてありえない。背が寒くなるくらいだよ」

「ほんとにね、僕もそう思うよ、兄さんの美しさには他の誰も、 (かな)わない」 
ひざをついた姿勢から見上げてエルロヒアが言います。それからふと小首をかしげて笑い出しました。 
「そんなこと言ったらなんだか、自分を自慢してるみたいだけど」

「口より手を動かそうぜ」 エルラダンが言いました。  「僕達が言うだけじゃないってことをちゃんと証明してあげないと」

「せっかちだなぁ、兄弟」 
エルロヒアが舌を鳴らしました。 兄のレギンスを紐解き、ずっしりと質量を増したものを取り出します。 エルロヒアが口でそこを濡らし始めると、 エルラダンはマストに背を預けて瞼を閉じました。 エルロヒアは兄のそれを手で堅く握ってしごきあげながら顔の向きを変え、 再びレゴラスの棹を口の中に入れました。

エルラダンが首を傾けレゴラスに口づけました。 激しく奪うようなその接吻の最中に、レゴラスはエルラダンの命令のことばを聞きました。 それからエルラダンが言いました。 
「彼の口は悪くない、だろう?」

レゴラスは息を切らせて喘ぎつつ、こくりと頷きました。

エルラダンはふるりと身を震わせながら王子の目を覗き込みました。 
「彼の口は僕もすごく、好きなんだ。見てごらん」 
そう言われてレゴラスが下を見てみると、エルロヒアが奉仕していたのはエルラダンのもののほうでした。 光沢のある黒髪が前後に揺れ、あの魅力的な唇から何度もエルラダンの大きな男根が出たり入ったりするのを見ていると、 レゴラスはもうそれだけで達してしまいそうでした。 そのときレゴラスはあることに気がつきました。

「エルロヒアの唇が、僕にもまだ感じられる」

「ああ!」 エルラダンが腰を揺すり上げながら言いました。 
「そう、美しの君、僕の感覚を、きみも感じてる。意識をもう、つなげたんだ」 
エルラダンは両手で顔を引き寄せると、もう一度荒々しくレゴラスに口づけました。 それから片手を降ろしてレゴラスのものを握り、手の中で上下にしごきはじめました。

絶頂に向け容赦なく追い上げる熱い唇と棹を上下する掌の感覚、 両方の感覚が2重にレゴラスを襲いました。 やがて手のひらの離れる感触にレゴラスは下を見ました。 完全に屹立した自分自身のすぐ隣りには、喉奥までエルラダンを咥え込んだエルロヒア。 レゴラスは眼を閉じて、濡れた熱い唇が棹のまわりで蠢くその感触に感覚を集中させました。 次には性急に出し入れを繰り返す、咥内の男根のその太くて堅い感触。 先走りの味を舌に甘く感じるのとほぼ同時に、 レゴラスはエルラダンが絶頂に近づき大きく昂ぶるのを感じました。

腹の底から響くような呻き声をあげて、エルラダンが達しました。 腰を揺すり上げながら弟の咥内に激しく放出します。 同じ瞬間、レゴラスも低く声を上げながらエルロヒアの頬に白濁を飛び散らせました。 熱くねっとりとしたものが頬を伝って垂れ落ちる感触に、 レゴラスは思わず自分の頬に手をやりました。ですが当然頬は乾いたままでした。

身体中を快感が駆け巡り、レゴラスは膝が抜けそうになりました。 レゴラスは手を伸ばしてレギンスを引き上げると足を組んでデッキ上に腰を下ろしました。 エルラダンは優しく、繰り返しエルロヒアにキスしています。 口の中にはまだ、エルラダンの残滓が残っているようでした。 双子たちが放つ愛情の波のようなものが、レゴラスを優しく包みこみました。

「すごい才能だよね」 エルフ王子が告げました。

振り返ったエルロヒアの目が笑っています。  「君になら喜んでもらえるって思ってたよ。 光栄に思ってほしいな。僕達がこれを他人と共有することなんて滅多にないんだから」

「でも今夜僕達は、思いつく限りの方法でやれるだけ何度でも、 我らが麗しい闇の森の王子とこれを共有しようって決めたんだ」 
エルラダンは満面に笑みを浮かべてそう言うと、 手の甲をするりとレゴラスの頬に滑らせました。 レゴラスは下半身がぞくりと震えました。

「さあ行こう」 エルロヒアが優雅な物腰で立ち上がりました。 
「こんな硬いマストを背にしなくったって、 歓びを味わうにはもっとふさわしい、ちゃんとした場所があるんだ。 あ、君たちは両方、僕に借りがあるんだからね。後でゆっくり、返してもらうよ」 
エルロヒアはそう言うと、2人を見てにやっと笑って見せました。 それから手袋を拾って腰紐に挟み、デッキで助走をつけてから 係留ロープの上に飛び乗って、身軽に岸へと走っていきました。

レゴラスとエルラダンも顔を見合わせ、にや、と笑うと急いで服を身に着けます。

「僕が最初に捕まえるんだからね?」 
レゴラスがそう言うとエルラダンは笑ってこう答えました。
「だったら僕より先に捕まえてみてごらん!」 







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